- 患者様や生活者様
- グローバルヘルス
2026年9月3日掲載
本編レポートでは、2026年5月29日にサントメ・プリンシペで開催されたリンパ系フィラリア症制圧に向けた世界保健機関(WHO)プログラムの最終サーベイランス開始のための会合の様子をご紹介しました。
では、その会合が開かれた「サントメ・プリンシペ」とは、どのような国なのでしょうか。国名を耳にしたことがある方は、それほど多くないかもしれません。実際に訪れたことのある方となると、さらに限られるのではないでしょうか。
今回の番外編レポートでは、本会合への出席のため、エーザイ社員として初めてサントメ・プリンシペを訪問したサステナビリティ部 神道美和が、現地の魅力や人々の様子、そして訪問を通じて感じたことなどをお届けします。
※本編レポートは、こちらをご覧ください(サントメ・プリンシペ民主共和国におけるリンパ系フィラリア症制圧に向けた「最後の一歩」—リンパ系フィラリア症の制圧がもたらすものとは?— )。

出典:外務省ウェブサイト
① サントメ・プリンシペ民主共和国の基本情報
サントメ・プリンシペは、アフリカ大陸西岸、ギニア湾に位置する島国です。サントメ島とプリンシペ島を中心に構成され、首都はサントメです。面積は約1,000平方キロメートルで、東京都の約半分に相当します。人口は約24万人(茨城県つくば市とほぼ同等)で、アフリカの中でも比較的小規模な国の一つです。
同国は1975年にポルトガルから独立し、現在は共和制をとっています。公用語はポルトガル語で、キリスト教を信仰する人々が多く暮らしています。主要産業は農業で、特にコーヒー豆やカカオ豆はポルトガル統治時代からの伝統的な輸出品として知られています。
サントメ・プリンシペは、世界銀行の分類で低中所得国に属します。限られた国土の島嶼国であり、少ない人口、地理的な隔絶性、外部環境や気候変動の影響を受けやすいことなど、開発上の構造的な課題を抱えています。一方で、豊かな自然環境や生物多様性を有しており、自然を活かした観光開発にも期待が寄せられています。
② まるで路線バス? アフリカの都市を乗り継ぐ空の旅
さて、突然ですが、皆さんは下記の都市のうち、いくつをご存じですか?
・インチョン
・アディスアベバ
・ヤウンデ
・リーブルヴィル
恥ずかしながら、私は渡航前、インチョン(韓国)しか知りませんでした。アディスアベバはエチオピアの首都、ヤウンデはカメルーンの首都、そしてリーブルヴィルはガボンの首都です。今回の出張は、これらの都市を経由しながら、4回乗り換え、最終目的地サントメ・プリンシペまで約35時間の長旅でした。
旅の途中で印象深かったのは、路線バスの停留所のように、経由地で同じ飛行機の乗客が入れ替わりながら次へ進んでいったことです。例えば、カメルーンのヤウンデ空港では、リーブルヴィルまで向かう乗客は機内に残る一方、降りる乗客がいたり、運航乗務員の交代や機内清掃が行われました。そして約1時間後、新たな乗客を迎えて再び出発するのです。余談ですが、行程表に記載されていなかったため私はヤウンデを経由することを把握しておらず、ヤウンデをリーブルヴィルだと勘違いし、荷物をまとめて飛行機の出口に向かい、一度降りそうになりました。間違いに気づき席に戻ると、隣の乗客から笑顔で「ウェルカムバック」と声をかけられました。長い移動で緊張が続いていた中、その一言に思わず気持ちが和らぎました。
ネットワーク環境については、アディスアベバでは通信速度はかなりゆっくりながらもWi-Fi接続ができました。一方、ヤウンデとリーブルヴィルではまったく接続できず、持参した本を読む以外やることがなく、思いがけずデジタルデトックスの時間となりました。リーブルヴィルでは、漫画スラムダンクとワンピースが本棚に陳列されているのを発見し、思わず二度見をして手に取りました。持参していた本も読み終えた時だったので購入しようと思いましたが、フランス語表記のためにあきらめました。大学時代の第二外国語であるフランス語をもう少し真面目に勉強しておけばよかったと、この時ほど後悔したことはありません。
さて、いよいよサントメ・プリンシペへの入国です。入国審査後、事前に外務省ウェブサイトで確認していた入国時に一括徴収される観光税25ユーロを支払うため、空港内の簡素な受付で現金30ユーロを手渡しました。すると、ポルトガル語で何か言われ、身振り手振りで会話すること数分、どうやら「5ユーロのおつりがない、よって30ユーロになる」とのことでした。いろいろ疑問が頭を掠めつつ、ポケットにある小銭をかき集めて耳をそろえて25ユーロ支払いました。こうして、約35時間に及ぶサントメ・プリンシペへの長旅が無事完了したのでした。

右2枚:サントメ島空港と搭乗した飛行機
③ サントメの街の様子
首都サントメの中心市街地は、全長3~4キロのコンパクトな街で、ポルトガル統治時代の面影を残す赤い瓦屋根や淡い色合いの建物が並んでいました。海沿いには比較的広い道路や遊歩道がありましたが、写真のように至るところが工事中でした。生活の基盤となるインフラの整備が進められており、街が変化していく過程にあることを感じました。
一方で滞在2日目、ホテルの給水設備が全館完全に停止し、近隣の系列ホテルへ移動するという出来事もありました。シャワーのお湯が出ない可能性は想定していましたが、まさかホテルのスタッフから「Water all stopped」と言われるとは思っておらず、インフラが日常生活に与える影響を身近に感じる経験となりました。
街中では、人、自動車、バイクが行き交っています。日本車比率は高く、最近日本では見かけない懐かしい車種もたくさんあり、タイムスリップした感覚さえおぼえました。タクシーの運転手によると、トヨタ車に加え、スズキのジムニーも人気があり、入荷まで2年近くもかかるとのことでした。

会合の翌日は、飛行機が運航しておらず時間があったため、首都サントメの中心部とは異なる人々の暮らしにも触れるため、市街を車で30分ほど離れたモンカフェ(Monte Café)というサントメ島中部の山間部にある地域を訪れました。市街地を離れるにつれて、街並みは次第に緑の濃い郊外の風景へと変わります。舗装された道路の脇には、木造やトタン造りの簡素な家屋が並び、バナナやヤシなどの熱帯植物が住宅地のすぐそばまで生い茂っています。標高が高くなってくると、コーヒーの木も多くみられます。道沿いの小さな露店では、バナナや野菜、果物などが並べられ、地域の人々の日常の暮らしを垣間見ることができました。
モンカフェまでの車中、生い茂る木々を見ながらタクシーの運転手が「子どもの頃、マラリアにかかった際にこの植物を煎じて飲んだ」「この植物は胃の不調に効く」などと教えてくれました。伝統的な習慣や知識が今もなお生きた知恵として受け継がれているのだと感じました。
モンカフェとは、名前からも想像される通り、かつては大規模コーヒー農園「ロッサ(Roça)」を中心に発展した集落を指します。当時は、コーヒー豆の加工施設、病院、礼拝堂、労働者の住宅などを備えたひとつの町のような場所でしたが、その発展は、植民地支配下における奴隷労働の上で成り立っていたそうです。今も当時の施設が一部残され、学校や居住地域として活用されています。



④ 渡航に備えた感染症対策
今回の渡航に際し、現地の感染症リスクや経由地の入国要件を確認し、黄熱病や破傷風などのワクチン接種に加え、マラリア予防薬を服用しました。黄熱病ワクチンは、アフリカへの渡航で一律に必要となるものではなく、渡航先や経由地、滞在時間などによって要件が異なります。今回、私はエチオピアを経由する旅程であったため、黄熱病予防接種証明書、通称「イエローカード」を携帯しました。
また、渡航が決まった時期には、アフリカの一部地域でのエボラ出血熱の発生が報道されていました。各空港にはエボラ出血熱についての注意を呼びかける掲示があり、目に見えない感染症に対する不安を感じると同時に、「感染症に国境はない」ことを改めて認識しました。今回の渡航は、個人として適切な予防策を講じることに加え、正確な情報を収集することや、国境を越えた感染症対策の重要性について考える機会にもなりました。
⑤ 長距離出張を終えて思うこと
今回のサントメ・プリンシペ訪問で、片道約35時間の長旅の途上でふと考えたのは、医療機関が身近にない地域で暮らす患者様にとって、治療を受けに行くこと自体が、大きな負担になりえるのではないかということです。
目的地までの長い距離、不慣れな土地を移動する不安、言葉の壁、交通手段の不足、移動や宿泊にかかる経済的負担、そして十分に休めない環境。健康な状態で移動した私でさえ、長時間の移動には精神的・身体的な負担を感じました。もちろん、今回の出張と、疾患を抱えながら医療機関を目指す患者様の経験を同列に捉えることはできません。それでも、患者様が治療にたどり着くまでに直面する困難や苦痛について、改めて考える機会となりました。
医薬品や治療法が存在することと、それらが必要とする人に実際に届くことは、必ずしも同じではありません。患者様が治療にたどり着くまでには、距離、費用、交通手段、医療情報へのアクセスなど、さまざまな障壁があります。今回の訪問を通じて、病気そのものだけでなく、患者様を取り巻く生活環境や社会的な課題にも目を向けることの重要性を改めて実感しました。
サントメ・プリンシペで目にしたのは、豊かな自然や穏やかな街の風景、そこで暮らす人々の日常、そして医療や生活を支える基盤の整備が進められている姿でした。同時に、地理的な制約やインフラ、医療へのアクセスなど、今後も継続して取り組むべき課題があることにも気づかされました。
リンパ系フィラリア症の制圧に向けた取り組みは、単に一つの感染症をなくすことにとどまりません。病気による身体的な苦痛や社会的、経済的な負担を軽減し、人々がより健康で安心して自分らしく暮らせる社会の基盤をつくることにもつながります。今回の経験を、一度きりの「遠い国への出張」として終わらせるのではなく、患者様が世界のどこに暮らしていても必要な医療にアクセスできる社会の実現に向けて、私たちに何ができるのかを考え、行動し続けるための糧にしていきたいと思います。
参考資料:
サントメ・プリンシペ基礎データ|外務省: https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/stp/index.html
Roça Monte Café: https://pousadas.st/destinations/103-roca-monte-cafe.html