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2026年7月16日掲載
アフリカ大陸西岸沖の島国サントメ・プリンシペで、リンパ系フィラリア症の公衆衛生上の制圧に向けた最終サーベイランスが開始されました。エーザイは2018年以降のジエチルカルマバジン錠(DEC錠)の無償提供などを通じて、この取り組みを支援しています。
2026年5月29日、サントメ・プリンシペの国連会議室にて、リンパ系フィラリア症制圧*1に向けた最終サーベイランス開始のための会合が開催され、エーザイも招待されました。
本会合には、同国保健省大臣 Celso Vaz Do Nascimento Matos氏(セルソ・ヴァス・ド・ナシメント・マトス、以下「ナシメント・マトス保健大臣」)や世界保健機関(WHO)サントメ・プリンシペ国事務所 Country Preparedness & IHR(CPI)部門担当 Vilfrido Santana Gil氏(ヴィルフリド・サンタナ・ジル、以下「サンタナ・ジル氏」)をはじめ、政府・行政関係者、WHO関係者、医療関係者など約30名が出席しました。

本会合は、サントメ・プリンシペにおけるリンパ系フィラリア症制圧に向けた取り組みが、いよいよ最終段階に入ったことを示す重要な節目となります。本稿では、本会合に出席したサステナビリティ部 神道 美和が、会合での関係者の発言を通じて、リンパ系フィラリア症制圧が同国と人々にもたらす意義、そしてエーザイがDEC錠の無償提供を通じて果たしてきた役割についてご紹介します。
公衆衛生上の歴史的な節目に向けて
冒頭、サンタナ・ジル氏は、最終サーベイランスの開始について、次のように述べました。
「最終サーベイランスの開始は、これまでに達成された成果を守り、リンパ系フィラリア症がサントメ・プリンシペの人々、そして将来世代の健康と福祉に対する脅威でなくなることを確実にするための決定的な一歩です」。

サントメ・プリンシペにおけるリンパ系フィラリア症制圧に向けた取り組みは、2014年の国内全域の感染実態疫学調査から開始され、地域住民に対する疾患や服薬意義の啓発活動、必要な医薬品の輸送や在庫管理、地域住民を対象にした集団投薬の実施、その後のサーベイランス調査、リンパ浮腫や陰嚢水腫などの症状を抱える患者さまに対する罹患管理と障害予防(MMDP)*2の体制整備など、10年以上もの多岐に渡る活動が実施されてきました。

一つひとつの取り組みは、決して華やかなものではありません。例えば、制圧成功のカギとなる集団投薬への住民の参加率向上。これは、行政・医療関係者が現地に幾度と足を運び、リンパ系フィラリア症という疾患と原因、予防可能であること、予防のために集団投薬に参加する必要性など正しい理解を促したことによって、2018年に実施された最初の集団投薬では84.5%、その後も高い参加率を維持しました。また、集団投薬後のサーベイランス調査とは、集団投薬によって感染レベルが十分に低下したかどうか、集団投薬を停止しても良いかを判断するための数年かけた調査活動です。子どもを含む住民から採血をしてもらう必要があり、効率的にそして正確な調査結果が得られるように、事前に関係者が自ら採血を練習するなどして実際のサーベイランス調査に臨みました。このように、リンパ系フィラリア症の制圧は、地道で根気のいる取り組みの積み重ねなしには実現できません。



取り組みへの謝意と疾患制圧がもたらす社会的意義
ナシメント・マトス保健大臣は、長年にわたりリンパ系フィラリア症制圧に取り組んできた国内の制圧チーム、指導的役割を担ってきたWHO、そして関係するすべてのパートナーに感謝を表明しました。また、今回の最終サーベイランスを支援する日本政府、ならびにDEC錠の無償提供やMMDPへの支援を行ってきたエーザイに対しても、深い謝意が示されました。
実際のところ国際保健分野を取り巻く資金環境の変化が厳しさを増す中で、最終サーベイランスのめどがついていない状況でした。日本政府による支援は、同国が最終サーベイランスを実施し、リンパ系フィラリア症制圧の達成に向けて歩みを進めるうえで、大きな意義を持つものとなりました。
サントメ・プリンシペでは、顧みられない熱帯病や他の感染症が依然として存在し、さらには糖尿病やがんなどの非感染性疾患の増加という新たな課題にも対応する必要が生じています。ナシメント・マトス保健大臣は、「リンパ系フィラリア症のような疾患を制圧できれば、それは国にとって、国民にとって、そして資金調達に奔走しなければならない政府にとって、懸念事項が一つ減ることを意味します。そして、その分の労力を、今後も人々に影響を及ぼし続ける他の疾患への対応に振り向けることができます」。
一つの疾患を制圧することは、単にその疾病負荷を減らすだけではありません。限られた保健医療資源を、他の重要な課題へシフトすることを可能にし、国全体の保健システム強化にもつながります。
また、ナシメント・マトス保健大臣は、リンパ系フィラリア症が未だに大きな差別や社会的排除を伴う疾患であることにも言及しました。
「残念ながら、この差別や社会的排除は、この病気についての理解不足からも生じています。この病気は、患者の下肢に現れる症状だけではなく、社会的にも広範で深刻な影響を及ぼす疾患です」。
リンパ系フィラリア症は、リンパ浮腫や陰嚢水腫、発熱や痛みなどの症状を引き起こし、患者さまの日常生活や就労機会に大きな影響を及ぼします。また、疾患に対する誤解や偏見が、患者さまやそのご家族の社会参画を妨げることもあり、家計や教育機会にも波及します。家族の働き手が就労機会を失った場合、子どもを含む家族全体の生活に影響が及びます。顧みられない熱帯病が貧困と深く結びついている背景には、このような構造的な課題があります。
ナシメント・マトス保健大臣は、リンパ系フィラリア症制圧に向けた成果についてメディアを使って国内外に積極的に発信し、疾患に対する国民の理解やサントメ・プリンシペという国の今後の発展可能性を広げていく考えを示しました。
最後にナシメント・マトス保健大臣は、次の言葉で締めくくりました。
「この国がこの病気から解放され、感染の伝播が断たれ、最終的にこの疾患が制圧されることを心から願っています。それは間違いなく、私たち国民にとって、より幸福な未来への大きな推進力となるでしょう」。
ひとつの国の成長や発展を支え、その国の人々の暮らしや未来を守る礎に
リンパ系フィラリア症制圧の取り組みは、同国政府、保健・医療関係者、地域社会、WHOをはじめとする国際機関、他国政府、そしてパートナー企業・団体による協働によって支えられてきました。決して一つの機関や組織だけで成し遂げられるものではありません。すべての関係者が同じ目標を共有し、それぞれの責任と役割を果たしながら、歩調を合わせて取り組み続けることが不可欠です。エーザイは、これまでDEC錠の無償提供を通じて、この国際的な取り組みに参画してきましたが、今回の会合を通じ、医薬品の提供にとどまらず、多くのステークホルダーとの連携が、顧みられない熱帯病対策を前進させる力になることを改めて認識しました。
また、リンパ系フィラリア症制圧のような取り組みは、成果が見えてくるまでに長い時間を要します。その一つひとつの活動は地道で根気のいるものです。しかし、こうした取り組みを相手国と共に継続してこそ、現地の人々の記憶に強く刻まれる信頼が生まれるのだと感じました。日本政府による支援、そしてエーザイの長年の取り組みに対し、現地の政府関係者や保健・医療関係者の皆様から頂いた言葉からは、単なる医薬品提供や資金支援への謝意を超え、日本という国、日本の企業に対する深い信頼が感じられるものでした。
これは、支援を受ける国だけでなく、支援する側にとっても大きな意味を持ちます。日本政府や日本企業による誠実で継続的な貢献は、現地における日本への信頼を育み、日本が長年大切にしてきた国際協力の姿勢を体現するものでもあります。その積み重ねは、将来にわたる国際交流や人的交流など、さまざまな形で信頼関係の深化にもつながっていく可能性を感じました。
今回、現地を訪問して身をもって実感したのは、感染症リスクが低減され、治安が安定していることは、訪問者にとって大きな安心材料になるということです。観光客やビジネスで訪れる人々にとっても、「安心して訪問できる国」であることは、その国の魅力を高め、企業活動や人的交流を促進するうえで大きな後押しとなります。こうした公衆衛生の向上は、医療分野の成果にとどまらず、支援する国・される国にかかわらず、国の持続的な成長や発展を支える基盤にもなり得るのだと思います。
リンパ系フィラリア症の制圧は、サントメ・プリンシペが公衆衛生上の大きな節目を越え、国として新たな成長段階へ歩みを進めることを示す象徴的な成果です。エーザイは、パートナーシップを通じて、こうした国の歩みを支え、人々の暮らしと未来を守る取り組みに貢献していきます。
※現地での活動やサントメ・プリンシペの魅力については、後日公開予定の番外編でもお伝えします。
*1 リンパ系フィラリア症制圧プログラムの概要:WHOは、2000年に世界リンパ系フィラリア症制圧計画(GPELF:Global Programme to Eliminate Lymphatic Filariasis)を策定し、感染伝播を止めるための集団投薬(MDA)と、リンパ浮腫や陰嚢水腫などの症状を抱える患者さまの苦痛を軽減するための罹患管理と障害予防(MMDP)を、制圧に向けた主要な2本柱として位置づけました。集団投薬を実施するためには、先ず流行地域を特定する必要があります(マッピング)。その後、感染率1%以上の流行地域のすべての住民に対して、年1回の集団投薬を複数年継続します(服薬レジメンによるが最低2~5年継続、参加率65%以上の確保が必要)。その後も、感染レベルが十分に低下したかを確認する疫学モニタリング調査、感染の再燃がないかを確認する伝播評価調査(TAS、2~3年おきに複数回実施)などのサーベイランス調査を実施し、最終的に集団投薬を完了させて良いかを判断します。またこれに加えて、リンパ浮腫や陰嚢水腫などを抱える患者さまへの罹患管理と障害予防の対策がきちんと設計されているかも制圧プログラムとして極めて重要です。

*2 MMDP: Morbidity Management and Disability Prevention(罹患管理・障害予防)
参考資料:
https://minsaude.st/legislacao/?utm_source=chatgpt.com
https://www.who.int/teams/control-of-neglected-tropical-diseases/ending-ntds-together-towards-2030
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaih/33/1/33_1/_pdf
https://espen.afro.who.int/maps-data/countries/sao-tome-and-principe#lf--maps
