より効果的なワクチンの開発に向けての協力

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2011年5月26日掲載

適応疾患:ウイルス感染症

技術タイトル:E6020—ワクチンアジュバントとしての合成Toll様受容体(TLR)4アゴニストの開発

背景

ワクチンは、公衆衛生対策の大きな成果の1つであり、安価で効果の高い実用的な手段として、感染症の根絶ないし拡大阻止に役立ってきました。かつて流行した天然痘、ポリオ、麻疹、ジフテリア、百日咳、風疹、流行性耳下腺炎、破傷風、インフルエンザ菌b型(Hib)感染症をはじめとする多くの感染症を抑制できるようになったのは、ワクチンがあったためです。抗原投与による免疫記憶と感染に対する迅速な二次応答の確立は、概念としては単純なものですが、世界の現状ニーズを満たす効果的なワクチンの開発において当社が解決すべき問題はますます多くなっています。地球上に蔓延している感染症の中でも、マラリア、HIV、新型インフルエンザは、依然として大きな課題です。

適切な抗原の同定が何より重要ですが、それができてもワクチン開発者が次に直面するのは、アジュバント(免疫増強剤)やデリバリー技術の選択肢が限られているという問題です。この分野の研究は急速に進められているものの、ヒトのワクチン反応を安全かつ効果的に増強できる認可済み分子は、とりわけ細胞溶解反応が求められるケースでは不足状態にあります。ワクチンの作用を高めるTLRリガンドの使用については現在本格的な研究が進められており、欧米でいくつかのワクチン製剤が実用化されるなど、一定の成果を挙げています。

技術開発

E6020は、完全合成の選択的TLR4アゴニストであり、その構造は天然のTLR4アゴニストである大腸菌型リピドAの構造および理化学的特性に基づいています。E6020は、選択的だが弱毒性のTLR4活性化作用を示すことが確認されており、様々な抗原ワクチンに対する免疫反応を高める可能性があることがマウスで実証されています。重要なのは、このアゴニストがマウスにおけるTh1細胞の活性と関連するIgG2aを増強する点です。これに伴い、抗原特異的IgEの力価は低下します。

したがって、従来のワクチン製剤にこのアジュバントを添加すれば、臨床においてTh1、すなわちインターフェロンγの反応性が高まり、アレルギー誘発性の調節に働く可能性があります。また、このアジュバント単独の低用量投与では、Th1/Th2の反応がいずれか一方に偏ることなく、バランスのとれた反応が得られると考えられます1-6)

E6020は、開発候補化合物として選定され、エーザイの事業開発チームとの連携のもと非独占実施権供与プログラムの一環として開発することが提言されました。現在は前臨床開発段階にあり、ワクチン開発の技術を有する企業への非独占実施権の供与を目指しています。

サノフィ・パスツール社とは、各種感染症に対するワクチンプログラムにE6020を使用する非独占的実施権に関するオプション契約を締結しました。これらの企業はE6020を自社のワクチン製剤のアジュバントとして使用し、実用化したのちに臨床導入を進めることになります。エーザイは、開発の全般にわたり、cGMP適合E6020の生産・供給を担います。臨床開発などに必要とされる解析データ、理化学的データ、ADMEデータ、毒性データは当社から取得されているか、今後提供されます。現時点で当社は、フェーズI/フェーズII試験に使用可能な十分な量のcGMP適合E6020を保有しており、フェーズIII試験用のcGMP適合E6020についても、要請があり次第原料生産を開始します。

参考文献

  • 1)
    Ishizaka, Sally T. et al. Expert Review of Vaccines (2007), 6(5), 773-784.
  • 2)
    Baudner, Barbara C. et al. Pharmaceutical Research (2009), 26(6), 1477-1485.
  • 3)
    Morefield, Garry L. et al. Clinical and Vaccine Immunology (2007), 14(11), 1499-1504.
  • 4)
    Przetak, Melinda. et al. Vaccine (2003), 21(9-10), 961-970.
  • 5)
    Seydel, Ulrich. et al. European Journal of Immunology (2003), 33(6), 1586-1592.
  • 6)
    Hawkins, Lynn D. et al. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics (2002), 300(2), 655-661.

関連リンク