新薬によるマラリア対策への協力:活性化Toll様受容体(TLR)9 アンタゴニストの開発

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2011年5月26日掲載

適応疾患:マラリア

技術タイトル:E6446—活性化Toll様受容体(TLR)9 アンタゴニストの開発

背景

世界全体で毎年100万人近く(多い年では300万人に達する)がマラリアで死亡していると推定されており、その多くは5歳以下の子供です1)。発生地域としては発展途上国が圧倒的に多い状況です。脳マラリアはマラリア症例の約10%を占めており、24~48時間以内の死亡率は25~50%にも達します2, 3)

マラリア治療薬として数十年間使用されてきたクロロキンは有効性が低下しており、一部の地域ではクロロキン耐性原虫による感染が症例の9割にのぼります4)。比較的新しい薬剤であるアルテミシニンへの耐性も報告されています5)。マラリアの蔓延と既存薬に認められる耐性を考慮すれば、新薬による治療の導入が急務といえます。

マラリア感染症が遷延化すると貧血により死亡するケースもありますが、最も重症度の高い臨床症状は、住血原虫による直接の影響ではなく、多くの場合はマラリア原虫感染に対する過剰な宿主免疫反応を原因としています6)。実際に、マラリアは激しい炎症反応によって重症化を招く疾患であるというのが現在の統一見解とされています6)。マラリア原虫に感染した重症患者は、全身性の著しい高サイトカイン血症、高熱、発作、腎不全を呈し、最悪の場合は死に至ります3)。脳マラリアの典型的な症状は致死性の全身痙攣と昏睡です3)

技術開発

Toll様受容体(TLR)は、微生物による攻撃時に炎症性サイトカインの産生に重要な役割を果たす自然免疫受容体ファミリーを構成しています7)。エーザイは、TLRと相互作用する新規薬剤の創薬研究において業界をリードしてきました。現在、ヒトの重症敗血症の治療に向け、TLR4アンタゴニストのエリトランのフェーズIII試験が進められています。さらにTLR9に関して、マラリア感染動物モデルにおける関与や、ヒトの疾患の発生機序への関与が明らかになったことを受け、当社はTLR9調節剤の創薬研究を開始しました。

エーザイは、経口活性型TLR9アンタゴニストであるE6446を開発し、ミナスジェライス連邦大学(Dr. Ricardo Gazzinelli)及びマサチューセッツ大学(Dr. Douglas Golenbock)との共同研究により複数の動物感染モデルを用いてその効果を検証しました。

P. chabaudiマラリアモデルでは、in vivo感染およびin vitro脾臓細胞感染による炎症性サイトカインの自然放出がE6446により阻止されました。様々なTLRリガンドを用いてin vitroで刺激したP. chabaudi感染マウスの細胞にE6446を投与したところ過剰反応が有意に抑制されました。また、エンドトキシンの負荷に対して過剰反応を示すP. chabaudi感染マウスの死亡がE6446の投与により阻止されました。さらに、P. berghei ANKA脳性マラリアモデルでは、P. berghei感染マウスは痙攣発作や麻痺を起こし、感染後10~15日目までに最大で75%が死亡しましたが、E6446の予防的投与により脳性マラリアによる死亡率は20%にまで低下し、脳血管病変の発生や血管成分の脳への漏出が抑制されました。

参考文献

  • 1)
    World Health Organization, Fact Sheet No.94, April 2010
  • 2)
    Krishnan, A. et al. Crit Care Med 2003; 31:2278-84
  • 3)
    Newton, C.R.J.C. et al. N. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 2000 69:433-441
  • 4)
    Djimdie, A.A. et al. FEMS Immunology & Medical Microbiology, Special Issue: Neglected Tropical Diseases. Volume 58, Issue 1, pages 113–118, February 2010
  • 5)
    Dondorp et.al. Nature Reviews Microbiology 8, 272-280 (April 2010)
  • 6)
    Artavanis-Tsakonas K, et al. Clin Exp Immunol. 2003 Aug;133(2):145-52.
  • 7)
    R. Medzhitov, et al. N Engl J Med 343, 338 (Aug 3, 2000)

関連リンク