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ニュースリリース

(2005年8月29日)

敗血症治療剤E5564(エリトラン)の重症敗血症フェーズⅡ試験に成功

 エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)はこのたび、敗血症治療剤として開発中のエンドトキシン拮抗剤E5564(一般名: エリトラン)について、北米で実施していた重症敗血症を対象としたフェーズⅡ試験において、目標としていた5%以上の死亡率の低下を達成しました。当社は今回の試験結果に基づき、米欧の薬事規制当局とのミーティングを経て、今年度中のフェーズⅢ試験開始を目指します。なお、米国においては1999年7月にファストトラック(Fast Track)指定を受けています。

 今回のフェーズⅡ試験では、重症敗血症の患者293名を対象にE5564の高用量(105mg/6days)、低用量(45mg/6days)とプラセボの3群比較を行いました。包括解析では、投与開始後28日間の絶対死亡率において、高用量群でプラセボ群と比較し6.4%の減少(p=0.34)を示し(プラセボ群の33.3%に対し低用量群では32.0%、高用量群では26.9%)、本試験で目標とした5%以上の死亡率低下を達成しました。さらに、プロトコールの規定に合致する患者群での解析では、高用量群でプラセボ群と比較し12.2%の減少(p=0.09§)を示しました(プラセボ群の34.6%に対し低用量群では32.5%、高用量群では22.4%)。また、包括解析でのPROMを用いて分類したハイリスク患者群においての死亡率は、プラセボ群が50.9%であったのに対し、低用量群では37.9%、高用量群では33.3%であり、それぞれ13.0%(p=0.17§)、17.6%(p=0.07§)と、より大きな死亡率低下を示しました。(注 §:p値は探索目的に算出したものであり、多重性補正は行っていません)
 なお、本試験は統計学的有意差を得ることを目的としたデザインではなく、投与終了後28日間の絶対死亡率をプラセボに比べて5%以上低下させることの確認を目的としたものです。本試験の結果からE5564の目標としていた有効性を確認できたと判断しました。

 安全性面では、E5564は良好な忍容性を示しました。本剤を末梢静脈から投与した群で6.7%に静脈炎が認められましたが、時間経過とともに回復傾向を示しました。

 敗血症は、感染に対する過剰な全身性炎症反応(SIRS)を伴う重篤な病態で、重症例では、敗血症性ショックや血管内凝固症候群(DIC)、ひいては多臓器不全を引き起こし、高い死亡率に至ります。敗血症では、TLR4受容体が細菌の菌体成分であるエンドトキシンを認識し、炎症性メディエーターを遊離することが病態の重要な因子と考えられています。

 E5564は当社のボストン研究所が全合成したLipid Aの誘導体で、TLR4に特異的に拮抗することにより治療効果を発揮することを目的として設計された化合物です。米国で実施したフェーズⅠ試験では、エンドトキシンによって引き起こされる発熱・頻脈などの臨床症状の抑制と、炎症性サイトカインの産生を抑制することが確認されています。

 エーザイは、未だ満たされない医療ニーズの充足を目的として様々な疾患の治療剤の開発を進めています。今回の重症敗血症患者を対象としたフェーズⅡ試験の成功によって、新たな敗血症の治療法の提供に近づくものと期待しています。

以上


[参考資料]

PROM:
APCHE II Predicted Risk of Mortalityの略。APACHE IIスコアをもとに患者の背景因子や症状を元に計算した推定死亡確率のことです。

敗血症:

細菌に感染して正常な免疫応答力が阻害され、全身的な炎症が生じた状態をさします。この引き金となるのがエンドトキシンであり、細菌から放出されたエンドトキシンが、細胞のTLR4受容体を介して体内の生理活性物質(サイトカイン)の遊離を促すため、種々の炎症等が生じると考えられています。

エンドトキシン:

細菌の外膜成分で内毒素とも呼ばれ、微量で発熱、血圧降下や炎症性細胞の活性化などきわめて多彩な生物活性を示します。

TLR4 (Toll-like receptor 4):

細胞膜貫通蛋白の一種で、自然免疫機構を担う受容体であり、細菌などの病原体成分の分子などを認識します。現在10種類以上のTLRが報告されていますが、TLR4はエンドトキシンを認識する受容体です。

Lipid A:

エンドトキシンの末端にある疎水性の糖脂質で、エンドトキシンが炎症を引き起こす活性本体です。

E5564の作用メカニズム

E5564はエンドトキシンがその受容体(センサー)であるTLR4に結合することを阻害して、TLR4が活性化すると引き起こされる受容体シグナルの発信を妨げます。その結果、IL-1やTNFなど一連の炎症性サイトカインの遊離を阻害して、敗血症症状の発現を抑制します。

全身性炎症反応症候群
(Systemic Inflammatory Response Syndrome: SIRS):

感染の有無にかかわらず、体温異常、頻脈、呼吸数の増加、動脈血の酸素分圧の低下、白血球異常の2つ以上の症状がある場合をさします。

播種性血管内凝固症候群
(Disseminated Intravascular Coagulation: DIC):

DICとは広範囲な血液凝固系の崩壊状態です。

多臓器不全:

生命を維持するために必須な、腎臓、呼吸器、肝臓、血液系、心血管系、消化器、神経系のうち、複数が同時、あるいは短時間のうちに相次いで機能不全に陥った状態をいいます。