人権尊重の基本的な考え方
- 人権の尊重は、ビジネス活動における最も重要で基本的な要件の一つであり、企業の責務であると認識しています。当社の企業理念であるヒューマン・ヘルスケア(hhc)を実現するためのビジネス活動の社内規範として定めた「エーザイネットワーク(ENW)企業行動憲章」には、いかなる国や地域において事業を展開する場合にも人権を尊重することが明示されています。
当社は、ENW企業行動憲章に則り、人権尊重を基盤とする事業活動を推進するために、「エーザイネットワーク(ENW)人権方針」を定めています。当社グループは、人権方針に則り、企業の人権尊重責任を果していく活動を展開しています。
ENW人権方針と取り組み
ENW人権方針は、国際的に認められた人権に関する国際規範*に基づいて策定され、業務執行の最高意思決定機関である執行役会の承認と取締役会の了承を得て、2019年3月に発行しました。本方針において、国際的に認知された人権を尊重し、国連グローバル・コンパクトに署名する企業として10原則を支持し、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠した取り組みを実施していくことを表明しています。また、サプライヤーを含めたビジネス・パートナーにも、人権を尊重し侵害しないよう求めていくことを本方針に定めております。
*人権に関する国際規範
- 「国際人権章典」(世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済、社会的及び文化的権利に関する国際規約)
- 「労働における基本原則及び権利に関する宣言」(国際労働機関)
- 「ビジネスと人権に関する指導原則」(国連人権理事会)
- 「OECD多国籍企業行動指針」2011年改訂
ガバナンス体制
人権方針に基づく人権尊重の活動を行うために、組織横断型の「ビジネスと人権」プロジェクトを設置しました。本プロジェクトは、各組織で活動を行うワーキンググループとその活動を監督するプロジェクト運営委員会から構成されます。運営委員会のメンバーは、人権方針運用責任者のチーフタレントオフィサー(議長)、コンプライアンス・リスクマネジメント担当、総務・環境安全担当執行役、ESG担当執行役で構成されます。また、サステナビリティ部、総務・環境安全部、グローバルHRマネジメント部、コンプライアンス・リスク管理推進部の担当者がプロジェクト事務局として、プロジェクトの活動をリードします。
エーザイには、1980年に「人権啓発推進委員会」が設置されており、エーザイ及び国内ネットワーク企業において、人権課題に対する啓発活動に取り組んできました。「ビジネスと人権」プロジェクトは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく国際的な人権尊重の潮流や各国の人権の法制化の流れに迅速に対応するために新しく設置されたプロジェクトです。「ビジネスと人権」プロジェクトと「人権啓発推進委員会」は、連携して人権尊重への取り組みを推進しています。
人権デュー・デリジェンス
人権方針に則り、当社の事業に関連する主要なライツホルダーである「患者様および生活者の皆様(臨床試験参加者を含む)」、「従業員」および「取引先(サプライヤーを含む取引先)」を対象として人権デュー・デリジェンスを実施します。人権問題の発生可能性とその影響度を指標にして、医薬品業界におけるこれまでの人権問題の発生事例を分析することで、これらの主要なライツホルダーの人権に関するリスク評価を実施しました。
エーザイの事業活動に関係する優先度の高い人権課題として、「医薬品へのアクセス」、「患者様の人権」、「臨床試験参加者の人権」、「製品の安全性と品質」、「倫理的マーケティング」、「従業員の健康と安全」、「職場環境」、「サプライヤーを含むお取引先における人権」の8領域を特定しました。また、温室効果ガスによる地球温暖化は生活者に負の影響を与え、取引先の環境汚染は地域住民の健康被害を及ぼすことから、「環境に与える影響」も重要な人権課題の一つに加えました。人権プロジェクトチームは、毎年、人権啓発推進委員会と協力して、これらの重要な課題を評価し、これらの問題に優先順位を付け、潜在的なリスクを特定し、それらを軽減するための措置を講じます。当社のステークホルダーに対し、これらの課題に次のように取り組んでいます。
患者様と生活者の皆様の人権
エーザイは、開発途上国・新興国における「医薬品アクセス」改善を取り組むべき重要な人権課題と認識し、政府や国際機関、非営利民間団体等とのパートナーシップのもと、積極的に課題に対する取り組みを推進しています。詳しくは、当社ホームページの「医薬品アクセス向上への取り組み」を参照してください。
臨床試験参加者の人権
新薬の安全性と効果を見極め、優れた新薬を世界にお届するために臨床試験は欠かせないプロセスです。そうした臨床試験にご参加頂く方々の人権を尊重し、安全に最大の配慮を行うことは、製薬企業の責務と考えます。そのため、臨床試験の安全性に関する想定可能なあらゆる潜在的なリスクを特定し、対策を事前に用意するデュー・デリジェンスを行っています。当社は、ICH(医薬品規制調和国際会議)や各国の規制当局のガイドラインに基づいた、コンプライアンスと倫理性の確保を厳守しています。また、すべての臨床試験でICH-GCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験実施基準)や薬事法等の規制の遵守と高い倫理観を持って活動を行うことを行動指針として定めています。特に、最初の臨床試験を実施するに当たっては、事前に、新薬の開発プロジェクトとは独立して、治験実施計画、治験実施体制、治験薬の品質やリスクへの対応などを、倫理的、科学的な観点から評価する体制を構築し、試験実施を判断しています。
さらに、治療選択肢を包括的かつ公平に提供するために、臨床試験における多様性の取り組みを中核的なコミットメントのひとつに位置づけ、民族・人種・性別・年齢・社会経済状況・性同一性・居住地・身体能力に関わらず、全ての患者様の臨床試験へのアクセス拡大に努めています。
従業員の人権
エーザイは、従業員が健康でやりがいを感じながら仕事するためには、人権と多様性が尊重された働きやすい環境を整備していくことが重要であると認識しています。そのため、人種、性別、障害、年齢、性的指向や性自認などに関するあらゆる差別の禁止、ハラスメントの防止、女性の活躍推進、ディーセント・ワークのための労働環境や制度の整備に取り組んでいます。詳細は、当社ホームページの「従業員とのかかわり」に掲載するDE&I(Diversity Equity & Inclusion)、働きやすい環境、健康経営、労働安全衛生の各項目をご参照下さい。
また、当社は、「結社の自由と団体交渉の実効的な承認を支持すべき」との原則を掲げる国連グローバル・コンパクトに署名しており、労働組合との継続的な労使協議を重ね、労使間の様々な課題解決に連携して取り組んでいます。
お取引先の人権
お取引先に遵守して頂きたいサステナビリティ事項をまとめた「ビジネス・パートナーのための行動指針」を作成し、強制労働の禁止、児童労働の禁止、差別の禁止、公正な処遇、賃金・手当・労働時間、結社の自由及び健康と安全の整備などの人権・労働に関する遵守をお願いしております。当社の取り組みの詳細は、サプライチェーンにおける人権の項目に記載されています。
下記の表は、2022年度の主要なライツホルダーズについて、人権リスク課題と対応をまとめたものです。
2022年度の人権課題への取り組み事例
※左右にスクロールできます
ライツホルダー | 重点課題 | 対応 |
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患者様と生活者の皆様 |
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従業員 |
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お取引先 |
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*1
当社ホームページの「医薬品アクセス向上への取り組み」をご覧ください
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*2
当社ホームページの「リンパ系フィラリア症への取り組み」をご参照下さい。
URL: https://www.eisai.co.jp/sustainability/atm/ntds/lymphaticfilariasis/index.html
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*3
当社ホームページの「エーザイ健康宣言」をご参照下さい。
URL:https://www.eisai.co.jp/sustainability/employee/health_declaration/index.html
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*4
企業に取引先のサステナビリティ評価を提供するEcovadis社のグローバルプラットフォーム
サプライチェーンにおける人権デュー・デリジェンス
人権リスク(児童労働、強制労働、人身売買)への対応
サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身売買については、国際的に容認できない人権侵害とされています。医薬品原材料の購入を通じて間接的に人権への負の影響を与えている可能性を検証するため、購入原料に関して原産国の地理的ロケーションと事業の特性の観点からリスク評価を進めています。
リスクの高い原材料
錠剤の艶出しに使用されるカルナウバワックスは、原産地における強制労働のリスクや労働環境の懸念が指摘されていることから、当社の購入する原料に関するトレーサビリティ調査を行った結果、ブラジルの原産地企業を特定でき、原材料が認証機関(Fair for life)の認証済であることを確認しました。
外国人技能実習制度
日本の外国人技能実習制度は、賃金労働時間、セクシャルハラスメントなどの人権リスクが指摘され、米国国務省からは、強制労働に当たるとの指摘を受けています。日本における重要な人権課題の一つであると捉え、お取引先とのサステナビリティ評価のフィードバックの面談では、外国人技能実習生の雇用の有無の確認と雇用状況について報告を求めています。
サプライチェーンにおける人権・労働、安全・衛生の潜在的な悪影響の防止措置について
お取引に対しては、サステナブル調達のプログラムを実施することで、人権・労働などに関する潜在的な悪影響の防止に努めています。サステナブル調達では、主要な取引先に対して、サプライヤー行動規範である「ビジネス・パートナーのための行動指針」(以下、「行動指針」とします)の遵守を要請することで、当社と同様の人権を尊重への取り組みをもとめています。行動指針の中の労働・人権に関する要請事項には、強制労働の禁止、児童労働の禁止、若年労働者の雇用における法令遵守、差別の禁止、公正な処遇、ハラスメントなど非人道的な扱いの禁止、最低賃金の厳守、法定労働時間の遵守、結社の自由が含まれます。
また、行動指針の遵守状況のモニタリングとして、EcoVadis社のプラットフォームを用いた人権・労働、環境のリスク評価を実施し、評価結果からリスクの懸念があると判断された取引先には、個別にエンゲージメントを行い、双方合意のもとで、是正措置を求め、潜在的な人権リスクの防止措置に努めています。
潜在的悪影響の軽減のための主要確認項目
以下は、EcoVadis評価結果を解析した結果、共通して認められた優先度の高い主要改善ポイントの例です。
- 人権方針、HSE(健康・安全・環境)方針、労働慣行方針の策定
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国際スタンダードの要件を満たした方針への改善
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労働・人権に関するKPIの設定
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年次報告書等の報告文書、あるいはホームページ上での実施結果の公開
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環境方針の策定と環境への取組みの公開
潜在的な人権リスク軽減への取り組み経緯
国内工場のサプライチェーン
2020年度から2022年度にかけて、サプライチェーンにおける潜在的な人権の負の影響の防止を目的の一つとして、当社の国内工場の委託製造先を含む直接材のサプライヤーを対象としたサステナブル調達を実施しました。国内外の一次取引先132社(カバー率:総取引額の93.8%)及び主要な二次取引先69社より、行動指針の同意書を受領しました。また、EcoVadis社によるサステナビリティ評価に参加したお取引先は、一次取引先74社(総取引額の73.3%)、二次取引先35社でした。2022年度末の時点で、労働・人権および環境の評価結果で、高リスクと見なされる企業はありませんでした。2020-2021年度にリスクが高いと判断された2社については2021年度までに面談を行い、既に改善措置が完了していることを確認しております。お取引先とのエンゲージメントを通じて、サプライチェーン全体のサステナビリティのレベル向上を図ることを目的に、3年間で30社との個別に面談を実施しました。
海外工場のサプライチェーン
2022年度は、海外工場(インドのバイザッグ工場、中国の蘇州工場)でサステナブル調達を開始し、主要な直接材のお取引先から行動指針への遵守に関して同意書を受領しました。EcoVadisのサステナビリティ評価結果から、労働・人権のスコアにおいて当社の基準に達していないお取引先に関しては、2023年度に順次フィードバックを行い、改善を求めていきます。なお、英国のハットフィールド工場の一次お取引先に関しては、お取引先と契約時に行動指針への同意を頂いており、2023年度より、順次主要なお取引先のサステナビリティ評価を実施していきます。
グリーンバンスメカニズム
当社では、ハラスメント等人権に関するものを含むあらゆる相談・通報について、コンプライアンス・カウンター(内部通報・相談窓口)を設置して秘密保持や報復の禁止に配慮しながら、必要に応じて調査を進めたうえで、適切に対応しています。お取引先様からの相談・通報におきましても、当社事業や従業員にかかわるコンプライアンス通報を受け付ける窓口を設置しております。サプライチェーン上のステークホルダーにおける人権課題については対応を検討してまいります。
教育・研修
企業の人権尊重責任を果たしていくためには、人権尊重が企業文化として定着することが重要と考えています。人権尊重を基盤におくビジネス活動を徹底するため、エーザイ及び国内ネットワーク企業の役員、従業員を対象として人権啓発を継続して実施しています。
2021年度は、グローバルにおける人権リスク事例、「ENW人権方針」の理解と実践、差別問題を取り上げてオンライン形式による人権啓発研修を行いました。また、LGBTの方の思いや悩み、心情を共有し、LGBTなどのマイノリティへの偏見を排除することを目的として、外部からLGBT当事者を講師として講演会を開催しました。
2022年度は、「全ての社員がいきいきと働ける職場の推進」をテーマとして、オンラインによる人権啓発研修を行いました。また、「障がい者の方の思いや悩み、心情を共有し、人権尊重活動に繋げる」ことを目的に、外部から障がい者当事者様を講師として講演会を開催しました。
ハラスメント防止に関しては、e-learningおよびコンプライアンス研修で徹底を図っています。また、新入社員や新任組織長を対象とした階層別研修のプログラムにも人権研修を組み入れています。
グローバルでは、企業の人権デュー・デリジェンスを義務化する法律の制定の検討が進んでいることから、ビジネスと人権に関係する部署の担当者向けに、2022年に欧州議会に提出された「企業サステナビリティ・デューデリジェンスに関する欧州連合(EU)指令案」を中心として、社外専門家を講師とするセミナーを開催しました。今後の法制化への対応として、国連ビジネスと人権に関する指導原則に則った取組みを着実に進めることの重要性を共有することができました。
2022年度の実績
- オンラインによる人権啓発研修の実施:5,147名が受講
- 障がい者に関するライブ講演会の開催と動画配信:6,875名が聴講(重複を含む)
- 新入社員、組織長対象の階層別人権啓発研修の実施
- 人権標語募集:応募数1,752件
- 人権・環境デュー・デリジェンスに関するEU指令案についての社外専門家による講演開催
英国現代奴隷法への対応
英国で施行された英国現代奴隷法(UK Modern Slavery Act 2015)に基づき、Eisai Europe Ltd.は、2022年6月にステートメントを開示しています。
Modern Slavery and Human Trafficking Statement 2021-2022
エンゲージメント
エーザイは、国内外の最新の人権課題の情報を収集し、企業間で人権課題の情報を共有し、課題を解決するためには、企業間の協力及びNGOやNPOとの連携が効果的と考えています。エーザイは、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン、BSR(Business for Social Responsibility)、PSCI (Pharmaceutical Supply Chain Initiative)などのサステナビリティに関する枠組みに加盟して、人権に関する国際動向を把握し、人権デュー・デリジェンスの実施例や権の社内浸透の好事例などを学習するとともに、分科会における活動を通して、企業間で連携して人権に関する課題に取り組んでいます。