最先端がん遺伝子科学に基づいた創薬を志向する米国研究子会社「H3 Biomedicine Inc.」の新研究所が稼動次世代有機合成化学とがん患者様の遺伝子情報に基づいた個別化医療の実現に向けて

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)の米国研究子会社「H3 Biomedicine Inc.」(所在地:マサチューセッツ州、社長:Markus Warmuth、以下、「H3 Biomedicine」)の新研究所が稼動したことを記念して、12月1日(米国東部現地時間)にマサチューセッツ州ケンブリッジにおいて開所式を開催しました。H3 Biomedicineは、未だ十分な治療法が確立していないがんに対して、個別化医療を見据え、最新の遺伝子科学に基づいた創薬を志向していきます。

H3 Biomedicineは、がんと闘う患者様を見つめ、その遺伝子情報を読み解き、最新鋭の有機合成化学の粋を結集して、挑戦的ながん治療薬の開発に挑みます。その創薬戦略は、1)がん患者様の遺伝子情報を起点とし、最新のバイオインフォマティクス、がん生物学の技術を駆使することによって、疾患の根本原因に深く関連する創薬標的を同定すると同時に、標的分子としての妥当性検証を確実に行う、2)次世代有機合成化学技術を活用し、従来の創薬方法論ではアプローチが困難と考えられてきた創薬標的(undruggable targets)に対しても低分子薬剤開発の活路を開く画期的な化合物ライブラリーを創製する、二つの方針に則ったものであり、従来よりもはるかに確度高く、有用性の高い革新的ながん治療薬の創出をめざします。また、遺伝子情報をプロスペクティブに用い、バイオマーカー研究を迅速かつ効果的に進めることにより、前臨床研究・臨床研究が効率化され、全開発期間の大幅な短縮が期待されます。これにより、がんと闘う患者様に早期に革新的な治療薬をお届けすることをめざします。

H3 Biomedicineは、2010年12月に当社の米国事業会社であるEisai Inc.の子会社としてマサチューセッツ州ケンブリッジに設立されました。ケンブリッジは世界有数のバイオテクノロジークラスターであり、ワールド・クラスのサイエンティストが集結し、最新情報がスピーディーに交換される、まさに最先端の創薬を目指す企業にふさわしい地域です。現在H3 Biomedicineは、24,000スクエアフィート(約2,200平方メートル)の研究施設に最先端の設備を備え、次年度以降には更なる施設拡張と、総勢約70人からなるワールド・クラスのチームを構築する計画です。当社は、H3 Biomedicineに対して総額約2億ドルの研究資金を投資することを予定しております。

また、当社は、H3 Biomedicineが掲げる挑戦的な遺伝子科学に基づいた創薬ビジョンを共有し、H3 Biomedicineのバイオ・ベンチャーとしての自由闊達な社風と独自性を尊重すると同時に、長期的なコミットメントによってオペレーション面や経済面で協力するという、新たなビジネスモデルによって、革新的な治療薬の早期創出を実現し、がんと共に生きる患者様にグローバルに貢献することをめざします。

2011年10月、Markus WarmuthがH3 Biomedicine新社長に就任しました。Warmuth社長は医師として、また製薬企業のがん創薬研究チームのリーダーとしてがんの耐性獲得メカニズムの解析に関する研究等に携わった経験を有しています。その創薬、がん生物学、臨床腫瘍学の分野にわたる豊富な経験と実績は、H3 Biomedicineにおいても強力なリーダーシップとして活かされます。

H3 Biomedicineの核となるサイエンティフィックファウンダーには、Broad Institute of Harvard and MIT の設立メンバーであり、医薬研究やがん遺伝子研究の方法論の変革に携わってきたStuart L. Schreiber教授と、Todd R. Golub教授が参画しています。Schreiber教授による研究は、化学、生物学、医学に多大なインパクトを与えており、その成果の一つとして、Schreiber教授によって発見されたがん創薬標的をターゲットとする3種類の抗がん剤がすでに多くの国で承認されています。また、Golub教授は、がん関連遺伝子解析研究の世界的リーダーであり、がん研究にヒトゲノム情報を活用するアプローチを行った先駆者として知られています。H3 BiomedicineはWarmuth社長の強力なリーダーシップのもと、サイエンティフィックファウンダーの豊富な知や経験を最大限に取り入れ、画期的な新薬創出に活かしてまいります。

当社は、オンコロジー領域を最重点領域と位置付け、天然物由来、抗体医薬、低分子、ゲノムベースの4つの切り口を重視したプロダクトクリエーションを展開しています。従来のプロダクトクリエーション機能に新たにH3 Biomedicineを加えることで、最先端がん遺伝子科学に基づいた、天然物由来、抗体医薬、低分子によるがん治療薬開発を加速し、がん患者様とそのご家族に貢献してまいります。

以上

〔参考資料として、H3 Biomedicine概要、H3 Biomedicineの創薬戦略、エーザイの抗がん剤開発の特徴、米国ボストン地域におけるエーザイの研究基盤の歴史および開所式典の写真を添付しています。〕

<参考資料>

1. H3 Biomedicine概要について

H3 Biomedicineは、個別化医療を志向した、がん治療薬の創出と開発に特化したバイオファーマです。H3 Biomedicineは、がんの根本原因に関連する遺伝子情報をもとに、特定のがんに高い有効性が期待される創薬ターゲットに対する薬剤の開発をめざします。

【会社概要】

※左右にスクロールできます

会社名 H3 Biomedicine Inc.
所在地 米国マサチューセッツ州ケンブリッジ
社長 Markus Warmuth
事業内容 医薬品の研究開発
資本金 100万米国ドル
設立日 2010年12月13日(現地時間)

2. H3 Biomedicineの創薬戦略について

H3 Biomedicineの創薬アプローチには二つの原則があります。一つは、がん患者様の個々の遺伝子情報に着目し、バイオインフォマティクス技術を駆使してがんの根本原因に関連する遺伝子の候補を同定することです。同定された遺伝子の機能の検証を行った上で、がん治療のための標的分子を選定し、最適な評価系の確立を行います。二つ目の原則は、得られた標的分子が、従来の創薬方法論ではアプローチが困難と考えられてきたものであっても、それらが病因に関与する重要な標的である限り、断固として追求することです。その実現のために、多様性指向型合成(天然物を構造モチーフとして、構造的に多様性に富んだ低分子群を系統的かつ簡便に構築する合成技術)と呼ばれる次世代合成技術を活用し、化学構造の複雑さと合成の行いやすさのバランスをとりつつ、骨格と立体構造の多様性を確保するユニークな化合物ライブラリーを創製します。また、遺伝子情報をプロスペクティブに用いて、バイオマーカー研究を効果的に進め、がん患者様の個別化医療を志向するとともに、全開発期間の短縮をはかり、がんと闘う患者様に一日でも早く革新的な治療薬をお届けすることをめざします。

3. エーザイの抗がん剤開発の特徴

当社は、オンコロジー領域を最重点領域と位置付け、1)多様なプロダクトクリエーション活動、2)ウィメンズオンコロジーへのコミットメント、3)イーストアジアの重視を3つの特徴として掲げています。プロダクトクリエーションにおいては、天然物由来、抗体医薬、低分子、ゲノムベースの4つの切り口を重視しています。従来のプロダクトクリエーション機能に新たにH3 Biomedicineを加えることで、最先端がん遺伝子科学に基づいた、天然物由来、抗体医薬、低分子によるがん治療薬開発を加速し、その成功確度を向上します。ウィメンズオンコロジーの分野では、ハラヴェンの適応拡大(フェーズⅢ:より前治療歴の少ない乳がん等)、farletuzumab(フェーズⅢ:卵巣がん)、lenvatinib(フェーズⅢ:甲状腺がん、フェーズⅡ:子宮内膜がん)に注力します。イーストアジアに向けては、肝細胞がん、非小細胞肺がん等の治療薬の開発を加速してまいります。

4. 米国ボストン地域におけるエーザイの研究基盤の歴史

マサチューセッツ州ボストン地域は、ハーバード大学やMITをはじめとするアカデミア研究機関や、多くの先端医療機関を有する、世界有数のバイオテクノロジークラスターであり、ワールド・クラスのサイエンティスト、最先端・最新の情報が集結する地域です。当社は長くこの地域に研究拠点を構え、アカデミアとの連携を強化してきました。1989年には、米国マサチューセッツ州アンドーバーに探索研究所エーザイ・リサーチ・インスティテュート・オブ・ボストンを設立し、有機化学者として著名な岸義人ハーバード大学教授を中心に、新薬につながる化合物の開発に取り組みました。本研究所からは、有機合成化学の粋を結集したハラヴェン(一般名:エリブリン)が創製され、現在では総勢約220人が在籍し、がん・炎症領域を中心とした研究が進められています。1997年には、日米間の科学技術の発展と、教育面での交流を強化することを目的として、米国ハーバード大学ケミストリー・ケミカルバイオロジー学科(マサチューセッツ州ケンブリッジ)における研究棟の新設に10億円の寄付をし、Naito Buildingが建設されました。同科には継続的に当社の研究員を派遣し、人材育成、アカデミアとの連携を強化しています。

5. 式典写真

(写真左より) Stuart Schreiber博士、内藤晴夫社長、Markus Warmuth社長、Todd Golub博士