エレンベセスタットについて、CSF中Aβ レベルを低下させる有効用量においてスパイン密度評価による脳内シナプス機能に影響を与えないことを示す非臨床研究結果をアルツハイマー病協会国際会議2019(AAIC2019)において発表

 エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、経口βサイトアミロイド前駆体タンパク質切断酵素(BACE)阻害剤エレンベセスタット*1について、スパイン密度*2評価による脳内シナプス機能への影響を検討した非臨床研究の最新データを2019年7月14日から18日まで米国カリフォルニア州ロサンゼルスで開催されたアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference: AAIC)2019において発表しました。【ポスター発表番号:P2-064】

 

 BACEは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のβサイトを切断するアミロイドβ(Aβ)産生の律速酵素です。BACE阻害剤は、毒性種と考えられる脳内のAβ凝集体を減少させ、病態の進行を抑制する疾患修飾作用が期待されています。一方で、BACEによって変化を受ける物質(基質)として、APP以外にもシナプスの形成や機能において生理学的な役割を持つ基質も知られています。本研究では、新規の前臨床マウスモデルを用いて、BACE阻害剤の4週間投与後におけるCSF中のAβレベルおよび脳内シナプス機能への影響について検討しました。検討化合物には、エレンベセスタット(自社創製)、ベルベセスタットおよびlanabecestatを用い、神経細胞の樹状突起上に存在するスパインの密度(樹状突起10µmあたりのスパインの数)と海馬シナプトソーム(単離したシナプス終末)のミトコンドリア機能(ミトコンドリア酸素効率)を指標としてシナプス機能への影響を評価しました。スパイン密度の低下およびミトコンドリア機能の低下はシナプス機能に障害を与え、認知機能を悪化させると考えられています。

 なお、各BACE阻害剤の投与量は、マウスのCSF中Aβの減少効果の実験データから、それぞれの臨床試験用量に相当するように設定しました。

 

 本検討の結果、エレンベセスタットについて、CSF中Aβレベルが有意に低下した3、10mg/kg投与群おいて(p<0.001)、スパイン密度およびミトコンドリア機能への有意な影響は見られませんでした。

 ベルベセスタットについては、CSF中Aβレベルが有意に低下した10、30mg/kg投与群において(p<0.001)、スパイン密度の有意な低下が見られました(p<0.05)。lanabecestatについては、CSF中Aβレベルが有意に低下した30、100mg/kg投与群において(p<0.001)、スパイン密度はいずれの投与群も有意に低下し(p<0.05)、ミトコンドリア機能は100mg/kg投与群において有意に低下しました(p<0.05)。

 これらの結果から、エレンベセスタットは、CSF中Aβレベルを低下させる有効用量において脳内シナプス機能には影響を与えないことが示されました。

 

 当社は、アルツハイマー病/認知症領域分野における35年以上の創薬活動の経験を基盤に、包括的なアプローチによる創薬研究を通じて、認知症の予防と治癒の実現をめざしています。革新的な治療薬を一日も早く創出し、アンメット・メディカル・ニーズの充足と患者様とそのご家族のベネフィット向上に、より一層貢献してまいります。

  

以上

  

  

*1エレンベセスタットについて、バイオジェン・インク (本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、以下 バイオジェン)と共同で開発しています。

*2脳には1千億を超えるとも言われる神経細胞(ニューロン)があり、それぞれにシナプスと呼ばれる結合を形成することで情報伝達をしています。このシナプスはシナプス前ニューロンと呼ばれる情報を送る側のニューロンの軸索終末と、シナプス後ニューロンと呼ばれる情報を受ける側のニューロンの樹状突起との間に形成されます。シナプスを形成している樹状突起に無数にある棘上の構造のことをスパインといいます。

  

<参考資料> 

1. エレンベセスタット(一般名、開発コード:E2609)について
 エレンベセスタットは、次世代経口アルツハイマー病(AD)治療剤として開発しているエーザイ創製のBACE(βサイト切断酵素)阻害剤です。エレンベセスタットは Aβ産生に関する重要な酵素である BACE を阻害することにより、Aβの産生を低下させ、脳内のアミロイドプラーク形成を減少させることにより、AD の進行を抑制する疾患修飾作用が期待されています。現在、早期 AD を対象とした2つのグローバル臨床第Ⅲ相試験(MISSION AD1/2)が進行中です。本剤の米国での開発については、重篤な疾患に対する新たな治療法や重要なアンメット・メディカル・ニーズを満たす可能性のある薬剤として、米国食品医薬品局(FDA)が迅速に審査するファストトラック指定を受けています。

 

2. エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について   
 エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売にする提携を行っています。抗Aβプロトフィブリル抗体BAN2401とBACE阻害剤エレンベセスタットについてはエーザイ主導のもとで、グローバルでの承認取得に向けた開発を進め、承認取得後は米国、欧州(EU)、日本といった主要市場で共同販促を行います。BAN2401とエレンベセスタットについて、両社は研究開発費等の費用を折半し、共同販促に基づく売上高はエーザイに計上され、利益は両社で等しく分配します。