抗がん剤レンバチニブ 米国、欧州において、肝細胞がんに係る適応を同時申請

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、自社創製の抗がん剤レンバチニブメシル酸塩(一般名、以下 レンバチニブ)について、肝細胞がんに係る適応での承認申請を、日本に続き、米国食品医薬品庁(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)に対して行いましたので、お知らせします。レンバチニブによる肝細胞がんの治療はFDAから希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けています。

本申請は、全身化学療法歴のない切除不能な肝細胞がんの患者様954人を対象とした、レンバチニブと標準治療薬であるソラフェニブとの有効性および安全性を比較する多施設共同、非盲検、無作為化グローバル臨床第Ⅲ相試験(REFLECT試験、304試験)の結果に基づいています1

肝細胞がん一次治療薬の開発においては、過去10年間、ソラフェニブを対照とした他剤による4つの臨床試験において、いずれも全生存期間(Overall Survival:OS)に関する主要評価項目を達成できませんでした2。今回、レンバチニブは、本試験においてソラフェニブに対し、OSについて統計学的な非劣性を証明し、初めて主要評価項目を達成しました。

また、副次評価項目である無増悪生存期間(Progression Free Survival:PFS)、無増悪期間(Time To Progression:TTP)、および奏効率(Objective Response Rate:ORR)について、本剤はソラフェニブに対して、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示しました。本試験のレンバチニブ投与群で高頻度に確認された有害事象(上位5つ)は、高血圧、下痢、食欲減退、体重減少、疲労であり、これまでに認められた安全性プロファイルと同様でした。

肝がんはがん関連死亡原因の第2位であり、世界で年間約75万人(米国で年間約2万7千人、欧州で年間約6万2千人)が亡くなり、毎年約78万人(米国で年間約3万人、欧州で年間約6万3千人)が肝がんと診断されています3。肝細胞がんは肝がん全体の85~90%を占めており、切除不能な肝細胞がんは、治療方法が限られており、予後が極めて悪く、アンメット・メディカル・ニーズが高い疾患です。

レンバチニブは、「レンビマ®」の製品名で、甲状腺がんに係る適応において、日本、米国、欧州を含む50カ国以上で承認を取得しています。また、エベロリムスとの併用療法における腎細胞がんに係る適応において、米国、欧州を含む35カ国以上で承認を取得しています。欧州での腎細胞がんに係る適応については「Kisplyx®」の製品名で発売しています。

当社は、がん領域を重点領域の一つと位置づけており、がんの「治癒」に向けた革新的な新薬創出をめざしています。当社は、レンバチニブによるがん治療の可能性を引き続き追求し、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. レンバチニブメシル酸塩(一般名、以下 レンバチニブ、商品名:「レンビマ」「Kisplyx」)について

レンバチニブは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であるVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼに対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な、自社創出の新規結合型チロシンキナーゼ阻害剤です。

現在、本剤は、甲状腺がんに係る適応で米国、日本、欧州など50カ国以上で承認を取得しています。また、米国、欧州など35カ国以上で、腎細胞がん(二次治療)に対するエベロリムスとの併用療法に係る承認も取得しています。欧州での腎細胞がんに係る適応については「Kisplyx」の製品名で発売しています。

さらに本剤については、腎細胞がん(一次治療)を対象とした、エベロリムスあるいはペムブロリズマブとの2つの併用療法に関して、臨床第Ⅲ相試験を開始し、進行中です。また、ペムブロリズマブとの併用による固形がん(非小細胞肺がん、腎細胞がん、子宮内膜がん、尿路上皮がん、頭頸部がん、メラノーマ)を対象とした臨床第Ⅰb/Ⅱ相試験および肝細胞がんを対象とした臨床第Ⅰb相試験が進行中です。

当社は、本剤の肝細胞がんに係る適応について、日本(2017年6月)、米国、欧州(同年7月)において承認申請を行ったのに続き、中国においては2017年度下期に承認申請する予定です。

2. REFLECT試験(304試験)について1

REFLECT試験(A Multicenter, Randomized, Open-Label, Phase 3 Trial to Compare the Efficacy and Safety of Lenvatinib (E7080) Versus Sorafenib in First-Line Treatment of Subjects With Unresectable Hepatocellular Carcinoma)は、全身化学療法歴のない切除不能な肝細胞がんの患者様954人を対象とした、レンバチニブとソラフェニブとの有効性および安全性を比較する多施設共同、非盲検、無作為化グローバル臨床第Ⅲ相試験です。本試験には、954人の患者様が各投与群に1:1の割合で無作為に割り付けられ、レンバチニブ群(478人)では、体重によって1日1回12mg(60kg以上)または8mg(60kg未満)が投与され、ソラフェニブ群(476人)では1回400mgを1日2回投与されました。投与は病勢進行あるいは忍容できない有害事象の発現まで継続されました。

本試験は、主要評価項目をOSとし、非劣性の検証を目的に実施しました。また、副次評価項目として、PFS、TTP、ORR、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)などを評価しました。

主要評価項目であるOSは、レンバチニブ群で13.6カ月(中央値)であり、ソラフェニブ群の12.3カ月(同)に比較して、統計学的に非劣性が証明され(ハザード比0.92(95%信頼区間:CI = 0.79-1.06))、主要評価項目を達成しました。副次評価項目において、PFS(中央値)は、レンバチニブ群で7.4カ月、ソラフェニブ群で3.7カ月でした(ハザード比0.66(95%CI = 0.57-0.77)、P<0.00001)。また、TTP(中央値)は、レンバチニブ群で8.9カ月、ソラフェニブ群で3.7カ月(ハザード比0.63(95%CI = 0.53-0.73)、P<0.00001)、ORRは、レンバチニブ群で24%、ソラフェニブ群で9%(P<0.00001)でした。これら3つの評価項目について、レンバチニブ群はソラフェニブに対してそれぞれ2倍以上にするなど、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示しました。

また、EORTC QLQ-C30とQLQ-HCC18の質問票を用いた全般的なQOLの評価では、レンバチニブ群とソラフェニブ群の両群で薬剤の投与とともにスコアの低下が認められました。EORTC QLQ-C30の3項目(役割活動性、痛み、下痢)、QLQ-HCC18の2項目(栄養、身体像)において、レンバチニブ群はソラフェニブ群と比較して、QOLの悪化を遅延することがわかりました(名目P値<0.05)。

本試験のレンバチニブ投与群で高頻度に確認された有害事象(上位5つ)は、高血圧、下痢、食欲減退、体重減少、疲労であり、これまでに認められた安全性プロファイルと同様でした。

3. 肝細胞がん(hepatocellular carcinoma:HCC)について

肝がんはがん関連死亡原因の第2位であり、世界で毎年約78万人が新たに肝がんと診断され、約75万人の死亡が報告されています。地域差も大きく、中国、日本を含むアジアに新規患者様の約80%が集中しています3。肝細胞がんは、肝がんにおいて最も発生頻度が高く、肝がん全体の85~90%を占めています。肝細胞がんは慢性肝疾患、特に肝硬変と関連しており、発生原因として、B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスが挙げられますが、最近の調査では非B型非C型肝細胞がんの増加が報告されています。肝細胞がんの第一治療選択は外科手術ですが、肝臓移植、外科的切除、腫瘍アブレーション(ラジオ波焼灼法または凍結療法など)を含む根治的な治療介入、または肝動脈化学塞栓療法(TACE)に適さない切除不能な肝細胞がんの場合は、治療薬が限られており、予後が極めて悪いことが知られています。現在、全身化学療法歴のない肝細胞がんに対して承認されている薬剤はソラフェニブのみで、アンメット・メディカル・ニーズが高い疾患の一つです。

  • 1

    Cheng Aら、“全身化学療法歴のない切除不能な肝細胞がんにおけるソラフェニブを対照としたレンバチニブの臨床第Ⅲ相試験”、第53回米国臨床腫瘍学会年次総会(2017年6月)、抄録番号4001

  • 2

    Llovet JM and Hernandez-Gea V. Hepatocellular carcinoma: Reasons for Phase Ⅲ failure and novel perspectives on trial design. Clin Cancer Res. 2014;20(8):2072-2079

  • 3

    GLOBOCAN2012: Estimated Cancer Incidence, Mortality and Prevalence Worldwide in 2012. http://globocan.iarc.fr/