抗がん剤「レンバチニブ」の進行性腎細胞がん一次治療を対象とした臨床第Ⅲ相試験を開始「レンバチニブ/エベロリムス」、「レンバチニブ/ペムブロリズマブ」の2つの併用療法で同時開発

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、自社創製のマルチキナーゼ阻害剤レンバチニブメシル酸塩(以下 レンバチニブ)と抗がん剤エベロリムスまたは抗PD-1抗体ペムブロリズマブとの2つの併用療法に関して、進行性腎細胞がんの一次治療を対象としたグローバル臨床第Ⅲ相試験(307試験、CLEAR試験)を開始することをお知らせします。

CLEAR 試験(Comparison of the efficacy and safety of Lenvatinib in combination with Everolimus or pembrolizumab versus sunitinib alone in first-line treatment of subjects with Advanced Renal cell carcinoma)は、進行性腎細胞がんの患者様を対象とした「レンバチニブ/エベロリムス」および「レンバチニブ/ペムブロリズマブ」併用投与群の2群と、一次治療の標準療法であるスニチニブ単剤投与群との有効性と安全性を比較する、多施設共同、無作為化、非盲検の臨床第Ⅲ相試験です。本試験では、無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)を主要評価項目として評価します。

レンバチニブとエベロリムスを併用した非臨床研究において、レンバチニブが腫瘍血管新生に関与するシグナル伝達経路の上流(VEGFR:血管内皮増殖因子受容体とFGFR:線維芽細胞増殖因子受容体)を、エベロリムスが下流(mTOR:mammalian target of rapamycin)をそれぞれ抑制することで、血管新生阻害の相乗的な増強、および腎細胞がんに対して単剤より強い増殖阻害を示すことが報告されています1、2。さらに、レンバチニブと抗PD-1抗体を併用した非臨床研究においては、レンバチニブが免疫抑制性の腫瘍関連マクロファージを減少させ、抗PD-1抗体の抗腫瘍活性を有意に増強するという併用メカニズムが示唆されています3

腎がんの罹患者数は、2012年において世界で約33万8千人、欧州では約11万5千人、米国では約5万8千人、日本では約1万7千人と推定されています4。腎細胞がんは、腎臓におけるがんの90%以上を占めており5、尿細管の細胞ががん化したものです。罹患率は50歳代後半以降に増加し、また女性より男性に多く発症するといわれています。手術が難しい進行性や転移性の腎細胞がんでは、分子標的薬による治療が標準ですが、5年生存率が低く、依然としてアンメット・メディカル・ニーズの高い疾病です。

現在、レンバチニブは、甲状腺がんに係る適応で米国・日本・欧州など45カ国以上で承認を取得しています。また米国では、「血管新生阻害薬の前治療歴を有する進行性腎細胞がんに対するエベロリムスとの併用療法」の適応で、2016年5月に適応追加の承認を取得しています。さらに欧州においても「血管内皮増殖因子を標的とした薬剤の前治療歴を有する成人での進行性腎細胞がんに対するエベロリムスとの併用療法」の適応で2016年8月に承認を取得しています。

当社は、がん領域を重点領域の一つと位置づけており、がんの「治癒」に向けた革新的な新薬創出をめざしています。当社はレンバチニブのさらなるエビデンスの創出に注力し、本剤の製品価値最大化を通じて、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

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    米国・日本・欧州で承認されているレンバチニブの適応症は参考資料1を参照

<参考資料>

1. レンバチニブメシル酸塩(製品名:Lenvima®、Kisplyx® 以下 レンバチニブ)について

レンバチニブは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であるVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な、自社創出の新規結合型チロシンキナーゼ阻害剤です。

現在、レンバチニブは、甲状腺がんに係る適応で米国、日本、欧州、韓国、カナダ、メキシコ等45カ国以上で承認を取得し、加えて、南アフリカ、マレーシアなど世界各国で申請中です。米国では「局所再発又は転移性、進行性、放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がん」の適応で、日本では「根治切除不能な甲状腺癌」の適応で、欧州では「成人での放射性ヨウ素治療抵抗性の進行性又は転移性の分化型甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、ヒュルトレ細胞がん)」の適応で承認を取得しています。

レンバチニブは、2016年5月に、米国で「血管新生阻害薬の前治療歴を有する進行性腎細胞がんに対するエベロリムスとの併用療法」の適応拡大について承認を取得しました。また、2016年8月に、欧州においては「血管内皮増殖因子を標的とした薬剤の前治療歴を有する成人での進行性腎細胞がんに対するエベロリムスとの併用療法」の適応について承認を取得しました。欧州での本適応については「Kisplyx」の製品名で発売します。

さらに、本剤について、肝細胞がん(臨床第Ⅲ相試験)や子宮内膜がん(臨床第Ⅱ相試験)、胆道がん(臨床第Ⅱ相試験)、複数のがん種を対象としたペムブロリズマブとの併用療法(臨床第Ⅰb/Ⅱ相試験)など複数の臨床試験が進行中です。

2. 臨床第Ⅲ相試験(307試験、CLEAR試験)について

CLEAR試験は、全身薬物療法の治療歴がない、Karnofsky Performance Score6 70以上の18歳以上、組織学的または細胞学的に確定された淡明細胞型優位の進行性腎細胞がんの患者様を対象とした、レンバチニブ(18mg、1日1回経口投与)/エベロリムス(5mg、1日1回経口投与)の併用(A群)、またはレンバチニブ(20mg、1日1回経口投与)/ペムブロリズマブ(200mg 3週ごと静脈内投与)併用(B群)の2群と、対照薬であるスニチニブ単剤(50mg、1日1回経口投与、4週間投与後、2週間休薬)1群(C群)との有効性と安全性を比較する、多施設共同、無作為化、非盲検のグローバル臨床第Ⅲ相試験です。本試験は欧米を中心に開始し、日本も参加を検討中です。約735人の患者様を各群に1:1:1の割合で無作為に割り付け、A群とC群、およびB群とC群について、主要評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)の比較をおこないます。また副次評価項目として奏効率(objective response rate: ORR)、全生存期間(overall survival : OS)、安全性に関して評価します。

3. レンバチニブとエベロリムスの併用における非臨床研究について1、2

レンバチニブはRTKシグナル伝達経路の上流であるVEGFR、FGFRを阻害し、エベロリムスはその下流に位置するタンパク質であるmTOR(mammalian target of rapamycin)を抑制することが知られています。レンバチニブとエベロリムスの併用投与においては、これらの腫瘍血管新生に関与するRTKシグナル伝達経路を上流および下流の2つのポイントを抑制することで相乗的なシグナル伝達阻害が可能となり、顕著な血管新生阻害作用の増強が試験管内モデルにおいて、および、ヒト腎細胞がんA498ならびにCaki-1を用いた動物モデルにおいては、単剤投与に比較してより強い抗腫瘍活性が確認されています。

4. レンバチニブと抗PD-1抗体の併用における非臨床研究について3

レンバチニブは腫瘍関連マクロファージへの作用を介した免疫抑制の調整により、腫瘍免疫を賦活化させることが動物モデルで明らかとなっています。腫瘍関連マクロファージは一般に殺細胞性T細胞を抑制し、また癌細胞の転移を促進する作用が知られています。レンバチニブと抗PD-1抗体の併用投与において、レンバチニブは腫瘍関連マクロファージを制御し、抗PD-1抗体の抗腫瘍活性を増強する効果が動物モデルにおいて示唆されています。

  • 1

    Mitsuhashi K, et al. Effects of Lenvatinib Mesilate in Combination with Everolimus on VEGF and FGF-driven Angiogenesis and Tumor Growth. AACR Meeting Abstract, 2016; 3262

  • 2

    Adachi Y, et al. Lenvatinib mesilate in Combination with Everolimus Demonstrated Enhanced Antiangiogenesis and Antitumor Activity in Human RCC Xenograft Models. AACR Meeting Abstract, 2016; 3264

  • 3

    Kato Y, et al. Effects of lenvatinib on tumor-associated macrophages enhance antitumor activity of PD-1 signal inhibitors. AACR Meeting Abstract, 2015; A92

  • 4

    GLOBOCAN2012: Estimated Cancer Incidence, Mortality and Prevalence Worldwide in 2012. http://globocan.iarc.fr/

  • 5

    Eble J.N, et al. Pathology and Genetics of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs, World Health Organisation classification of tumours. (International Agency for Research on Cancer, Lyon, France in 2004)

  • 6

    がん患者様が日常活動を遂行する能力を計るための標準的な方法で、0~100までの11段階に分類されます。100が正常で症状も出ていない状態で、数値が下がるにしたがい全身状態が悪いことを意味します。カルノフスキー指数とも呼ばれています。