第49回米国臨床腫瘍学会年次総会において転移性乳がん患者様のQOLに関する「ハラヴェン®」(エリブリン)とカペシタビンとの比較検討結果を発表

エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)は、このたび、第49回米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)年次総会において、アントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤による前治療歴を有する転移性乳がん患者様を対象とした臨床第Ⅲ相試験(301試験)の解析から、「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩、以下「エリブリン」)がカペシタビンに比べて、全般的QOL(Global Health Status and Quality of Life: GHS/QOL)スコアを有意に改善することを示した結果を発表しましたので、お知らせします。

今回の発表は、301試験に参加した患者様の症状、機能、および全般的な健康状態に関わるQOL関連質問に対する回答を解析した結果に基づいています。結果として、全般的なQOLを示すGHS/QOLスコアでは、治療期間を通じてエリブリンがカペシタビンに対して有意な改善を示しました(p=0.048)。加えて、エリブリンが有意に優れた項目は、認知機能(p<0.001)、悪心・嘔吐(p=0.043)および下痢(p=0.001)でした。一方で、カペシタビンが有意に優れた項目は、情緒機能(p=0.033)、全身性に認められる副作用の症状(p<0.001)および脱毛による動揺(p=0.023)でした。

がんとその治療は、家庭生活あるいは家庭内での役割、仕事での能力発揮、一般的な社会活動への参加を困難にするなど、患者様のQOLに大きな影響を及ぼします。転移性乳がん患者様に対する新規治療法の開発では、最良のQOLを保ちながらできる限りの延命効果をめざすことを、主たる目標の一つにしています。QOLの適切な管理により、抗がん剤治療を継続することで、患者様に対する最大のベネフィットの提供が可能になります。

本試験を通じて集積されたQOLに関するデータは、乳がん患者様が各治療法を受けるにあたり、QOLの観点でどのような影響を受けるかを示したものであり、患者様に対する適切な治療法の決定を支援する情報になることを期待しています。当社はエリブリンのさらなるエビデンスの創出に邁進し、本剤の製品価値最大化を通じて、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

[参考資料として、301試験におけるQOL評価、QOL評価尺度、ハラヴェン®について添付しています]

<参考資料>

1. 301試験におけるQOL評価について

301試験は、局所再発性・転移性乳がんの患者様1,102名を対象として、多施設共同、無作為化、非盲検による、エリブリンとカペシタビンとの群間比較試験として実施されました。本試験では、前治療として術前・術後補助療法を含む3種類以下かつ進行性・転移性乳がんに対する治療として2種類以下の治療歴を有すること、加えて、アントラサイクリンやタキサン系抗がん剤による前治療歴を有する患者様を対象としました。本試験の主要評価項目としていた「全生存期間(OS)」と「無増悪生存期間(PFS)」について、エリブリン投与群は、カペシタビン投与群と比較して、統計学的有意差はありませんでしたが、OSを延長する傾向を示しました(エリブリン投与群OS中央値:15.9カ月、カペシタビン投与群OS中央値:14.5カ月、ハザード比:0.879、95%信頼区間:0.770-1.003、p値:0.056)。また独立審査機関の評価にもとづくPFSには両群間で差がありませんでした(エリブリン投与群PFS中央値:4.1カ月、カペシタビン投与群PFS中央値:4.2カ月、ハザード比:1.079、95%信頼区間:0.932-1.250、p値:0.305)。

また、副次評価項目として、ベースライン時、治療開始6週、3、6、12、18、24カ月後(病勢進行、治療変更まで)、および予定外の来院時に、QOL評価尺度であるEORTC QLQ-C30およびEORTC QLQ-BR23を用いたQOL評価が実施されました。今回のQOL評価では、縦断的解析手法が用いられ、ベースライン時からの全般的QOL(GHS/QOL)の変化を評価することを主目的とし、機能や症状等に関わるスコアの変化についても探索的な解析が実施されました。

2. QOL評価尺度について

本試験で用いたEORTC QLQ-C30およびEORTC QLQ-BR23は、乳がん患者様のQOLを評価する尺度として、海外の臨床試験や研究でもよく用いられており、がん患者様用QOL尺度に通常備わっている「機能」に関する尺度のみならず、臨床的にも有用な患者様の主観的な「症状」に関する尺度が備わっているのが特徴です。

EORTC QLQ-C30には、機能の5尺度(身体、役割、認知、心理、社会生活)、症状の3尺度(倦怠感、疼痛、悪心・嘔吐)と全般的QOLの1尺度に関する質問30項目が含まれます。機能および全般的QOLに関する尺度では高得点ほど良好であること示し、一方で症状に関する尺度では高得点ほど健康上の問題があることを示します。

EORTC QLQ-BR23には、全身性に認められる副作用の症状、容姿など乳がん患者様における特異的な尺度に関する23項目の質問が含まれており、EORTC QLQ-C30と併用して用いられます。

3. 「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩)について

「ハラヴェン®」は、新規の作用機序を有する非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai )から抽出されたハリコンドリン類の全合成類縁化合物であり、微小管の短縮(脱重合)には影響を与えずに伸長(重合)のみを阻害し、さらにチューブリン単量体を微小管形成に関与しない凝集体に変化させる作用を有しています。

海外で実施された、アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む前治療歴のある進行または再発乳がん患者様762人を対象とした臨床第Ⅲ相試験(EMBRACE試験)では、ハラヴェン®投与群は主治医選択治療群と比較し、全生存期間を2.5カ月間延長しました(全生存期間:13.1カ月 対 10.6カ月、ハザード比:0.81、p値:0.041)。また、当社は欧州と米国の審査当局からの依頼によりプロトコールの規定に加えてEMBRACE試験の結果をアップデートしました。その最新の解析データは、ハラヴェン®投与群では主治医選択治療群に比べて2.7カ月間の全生存期間の延長が認められました(全生存期間:13.2カ月 対 10.5カ月、ハザード比:0.81、p値:0.014)。ハラヴェン®投与群で高頻度(頻度25%以上)に認められた有害事象は、無気力(疲労感)、好中球減少、貧血、脱毛症、末梢神経障害(無感覚、手足等のしびれ)、悪心、便秘でした。この中で、特に重篤な有害事象として報告されたのは好中球減少(発熱を伴う症例が4%、発熱を伴わない症例が2%)です。またハラヴェン®投与中止に至った主な有害事象は末梢神経障害(5%)でした。また、日本で実施された臨床第Ⅱ相試験でも、前治療歴を有する進行または再発乳がん患者様に対し、良好な抗腫瘍効果と忍容性プロフィールを示しました。

本剤は、乳がんについて2010年11月に最初の承認を米国で取得し、これまでに欧州、日本、シンガポール、スイス等、40カ国以上で承認を取得しています。日本では、「手術不能又は再発乳癌」を効能・効果として承認され、2011年7月より発売をしています。また、本剤の製品価値最大化に向け、前治療歴の少ない乳がん、また、軟部肉腫、非小細胞肺がんについても開発を進めています。