新規Wntシグナル阻害剤の創出をめざしたVerastem, Inc.との共同研究契約を締結天然物合成化学の創薬技術基盤を活用したオープンイノベーション

エーザイ株式会社(本社:東京、社長:内藤晴夫)は、米国子会社であるエーザイ・インクが、米国のVerastem, Inc.(本社:マサチューセッツ州、社長:Christoph Westphal、以下Verastem社)と、がん幹細胞(Cancer Stem Cell:CSC)を標的とするWntシグナル阻害剤の創出に向けた共同研究契約を締結した、と発表しました。本契約に基づき、当社は、VS-507(一般名:サリノマイシン)の類縁体の合成展開を行い、新規のWntシグナル阻害剤の創出をめざします。

VS-507は、Verastem社がWntシグナル阻害剤として開発中の複雑な化学構造を持つポリエーテル系天然物です。これまでの研究から、VS-507は、Wntの共受容体であるLRP5およびLRP6のリン酸化を抑制し、そのタンパク分解を促進することによって、Wntシグナルを阻害することが報告されています。本共同研究において、当社は、ポリエーテルマクロライド系天然物であるハリコンドリンBから抗がん剤「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩)を創出した天然物合成化学の創薬技術基盤を活用し、VS-507類縁体を合成展開していきます。Verastem社は、CSCおよびWntシグナルに関する独自の創薬プラットフォームを活用し、類縁体の評価を行います。

本共同研究において見出された新規化合物については、Verastem社がその権利を保有し、当社はその化合物の事業化についての優先交渉権を保有します。また、当社がその権利を行使せずVerastem社が事業化した場合、当社は売上高に応じたロイヤリティーを受け取ります。

がん遺伝子研究の進展にともない、がんに関与するタンパク質の同定が可能になってきています。当社とVerastem社との補完的な基盤技術の融合は、Wntシグナルを制御する新規化合物の開発に向け、大きな相乗効果を生み出すことが期待されます。

当社は、がん領域を重点領域と位置づけ、新規抗がん剤や支持療法に用いられる薬剤の開発に注力しています。本契約により、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上に、より一層貢献することをめざしてまいります。

以上

[参考資料として、がん幹細胞、Wntシグナル、Verastem, Inc.について添付しています]

<参考資料>

1. がん幹細胞について

がん幹細胞(Cancer Stem Cell)は、幹細胞の性質をもったがん細胞です。幹細胞はその特性として、自己複製能(分裂して自分と同じ細胞を作り出す機能)と多分化能(様々な細胞に分化できる機能)という二つの重要な性質を持ちます。がんにおいても、幹細胞の性質をもったがん幹細胞を起源としてがんが発生するのではないかという、がん幹細胞仮説が唱えられています。がん幹細胞は1997年、急性骨髄性白血病においてはじめて同定され、現在では、固形がんを含め、様々ながんにおいてがん幹細胞が発見されています。

2. Wntシグナルについて

Wnt は分子量約4万の糖タンパク質で、線虫やショウジョウバエから哺乳類に至るまで生物種を超えて保存され、初期発生や形態形成、器官形成、出生後の細胞の増殖・分化・運動などを制御することが報告されています。Wntシグナルには、細胞分化・背側形成にかかわるWnt/β-カテニン経路、平面内細胞極性・原腸陥入運動にかかわるWnt/PCP経路、胚葉分離にかかわるWnt/Ca2+経路、筋新生の制御に関与する経路、などが知られています。Wntシグナル経路の中で最もよく知られているのがWnt/β-カテニン経路です。β-カテニンがWnt シグナルのメディエーターとして遺伝子発現を誘導し、その結果細胞の増殖や分化を制御することが報告されています。

3. Verastem, Inc.について

Verastem, Inc.は、米国マサチューセッツ州のケンブリッジを拠点とする、バイオファーマです。Verastem, Inc.は、腫瘍の再発、転移の根本的な原因とされている、がん幹細胞を標的とした乳がん等の治療剤の研究開発に注力しています。Verastem, Inc.の詳細情報は、www.verastem.comをご覧ください。