熱帯病

当社は企業理念(hhc理念)のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。当社にとって、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)やマラリアへの取り組みは、理念が導く重要なビジネスドメインと規定しています。

当社は、筑波研究所が開所した1980年代から感染症の研究を開始し、Drugs for Neglected Diseases initiative(DNDi)を含む多くのパートナーとともにNTDsやマラリアなどの治療薬開発を進めてきました。さらに、2010年から世界保健機関(WHO)やビル&メリンダ・ゲイツ財団などの世界のパートナーと共に、NTDsの一つであるリンパ系フィラリア症の制圧に向けて治療薬であるジエチルカルバマジン(DEC)錠の無償提供や疾患啓発に取り組んでいます。
hhc理念のもと、引き続き、グローバルパートナーとの連携をさらに強化しながら研究活動を進め、熱帯病などの顧みられない疾患による負担のない世界の実現をめざしてまいります。

これまでの歩み

1990年 抗真菌剤の研究プロジェクトがスタート

1990年、筑波研究所において、内臓真菌症(カンジダ症、アスペルギルス症等)治療薬創出をめざしたプロジェクトを開始しました。1994年、ラブコナゾールを内臓真菌症に対する臨床開発候補化合物として選択しました。その後、ラブコナゾールは、プロドラックであるホスラブコナゾール(開発コードE1224)として開発が進められました。

2002年 抗マラリア剤の研究がスタート

2002年、筑波研究所において、抗真菌薬のコンセプトがマラリアにも応用できるのではないかというアイディアをもとにhhc活動(患者様や生活者の皆様との共同化で得た気づきを業務において計画・実行する活動)を行い、マラリアへの取り組みを開始しました。その中で、抗真菌剤の標的分子として同定していたGWT1というタンパク質が、マラリア原虫にも存在することを発見し、2010年に創薬研究を開始しました。その後、GWT1に対して阻害活性を持つ自社化合物を見出し、最適化研究を進めた結果、2021年、E1511を臨床試験の候補品として創出しました。

2009年 DNDiとシャーガス病に対する新しい治療薬の臨床開発に関する提携およびライセンス契約を締結し、シャーガス病治療薬として、ホスラブコナゾールの臨床試験を開始

2003年、抗真菌剤として開発段階にあったラブコナゾールについて、ベネズエラ科学研究所のウルビナ教授により、シャーガス病の原因寄生虫であるトリパノソーマ・クルージに対して強い活性を示すことが報告されました。この報告がきっかけとなり、DNDiと共同研究を開始しました。2009年にはホスラブコナゾールについて、DNDiとシャーガス病に対する新しい治療薬の臨床開発に関する提携およびライセンス契約を締結し、ボリビアにて臨床第Ⅱ相試験(ホスラブコナゾールとベンズニダゾールの併用試験)を実施しました。本試験では、ベンズニダゾール単剤と比較しての有用性は検証できませんでしたが、ベンズニダゾール単剤について課題であった副作用の発現率が減少したことで、新たな標準治療法となり得るエビデンスの創出に貢献しました。本エビデンスにより、ベンズニダゾール単剤の投与期間の大幅短縮による治療アクセス改善が期待されます。本臨床試験の結果は世界五大医学雑誌の一つであるLancetに掲載されました。

2010年 WHOとNTDsに関する日本初のパートナーシップが成立 リンパ系フィラリア症の治療薬DEC錠をWHOに無償で提供することに合意

2010年、WHOとNTDsの一つであるリンパ系フィラリア症の治療薬のDEC錠の無償提供に関する共同声明文に調印しました。WHOとパートナーシップを組みNTDsに対する薬剤を無償提供するのは、日本企業として初めてのケースとなりました。この声明文において、当社は高品質のDEC錠を自社で開発・製造し、2020年までに22億錠をWHOに無償提供することに合意しました。2017年、当社は必要とする全ての蔓延国で制圧が達成されるまで無償提供を継続することを発表しました。

2012年 NTDsの制圧に向けた国際官民パートナーシップ「ロンドン宣言」に参画

2012年、当社は、グローバル大手製薬会社12社、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、WHO、米国・英国政府、世界銀行、蔓延国政府とともに、NTDsの制圧に向けて共闘する過去最大の国際官民パートナーシップである「ロンドン宣言」に唯一の日本企業として参画しました。

2013年 GHIT Fundの設立に参画

2013年、マラリア、結核およびNTDsに対する治療薬、ワクチン、診断薬の開発を推進する日本発の国際的な官民ファンドである公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund:GHIT Fund)の設立に参画しました。当社を含む日本の製薬企業5社、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、日本政府の担当者が構想から設立まで尽力しました。

2013年 DEC錠の無償提供を開始

自社で製造するDEC錠についてWHOの規定する品質基準を満たすことを示す事前認定(Prequalification)をNTDs治療薬として世界で初めて取得し、リンパ系フィラリア症蔓延国への無償提供を開始しました。

2016年 革新的な抗マラリア薬候補化合物群の発見をNature誌に発表

2016年、新規抗マラリア薬開発に向けたブロード研究所との共同研究プロジェクトにおいて、新しいメカニズムを持ち、革新的な抗マラリア薬となり得る候補化合物群が見出された成果を、科学雑誌Natureに発表しました。この化合物群の中から、E1018を臨床試験の候補品として見出しました。

2017年 DNDiおよびハルツーム大学菌腫研究センターと共同で、スーダンにおいて真菌性マイセトーマを対象に、ホスラブコナゾールの有効性を評価する世界初の二重盲検臨床第Ⅱb/III相試験を開始

2014年、スーダンのハルツーム大学菌腫研究センターファハル教授らは、真菌性マイセトーマの原因病原菌であるMadurella mycetomatisに対しラブコナゾールが強い抗真菌活性を示すことを報告しました。当社は、2015年に、ホフラコナゾールについて、DNDiとNTDsの一つであるマイセトーマの中で、特にアンメット・メディカル・ニーズの高い真菌性菌腫 (eumycetoma)に対する新規治療薬の共同開発契約を締結しました。2017年に、DNDiおよびハルツーム大学菌腫研究センターが、真菌性マイセトーマを対象に、スーダンにおいて、ホスラブコナゾールの有効性を評価する世界初の二重盲検臨床第Ⅱb/III相試験を開始し、2022年にその結果を国際学会にて発表しました。現在、スーダン当局と申請に向けた協議を進めています。

2022年 「キガリ宣言」に署名

2022年6月23日にルワンダ共和国の首都キガリで開催された「マラリアとNTDsに関するキガリ・サミット」において発表された「キガリ宣言」に署名し、WHOによる「NTDsロードマップ(2021-2030)」の達成に向けて、NTDs制圧支援を継続することを表明しました。

2023年 長崎アウトカムステートメントに賛同

2023年、G7長崎保健大臣会合に合わせて開催された国際会議で、キガリ宣言を受けたNTDsの研究開発およびアクセス&デリバリーの加速化を求めるNTDs制圧に向けた声明「長崎アウトカムステートメント」に賛同しました。