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薬草を求めて野山を歩く (2012.05.11)

 薫風さわやかなこの時期、野外散策にはもってこいのシーズンになりました。日頃からウォーキングをされる方も多いと思いますが、昔は、現在のように「健康のために歩く」のではなく「健康になる薬草を探すために歩く」といったことがされていました。江戸時代に各地の野山を精力的に歩きまわった学者がいました。その人の名は小野蘭山(らんざん)。日本を代表する本草学者です。
 本草学は書物からの豊富な知識に加え、実際の天然にある産物の観察が欠かせませんでした。国内で産出する薬物や有用品の探索と採取を目的として、徳川幕府は蘭山を始めとして、各地へ採薬使を派遣し、併せて地元の人々に何が役立つかを教えたのでした。

 蘭山の大規模な採薬調査が実現したのは73歳の時です。他の領地に行き、自由に植物を採取するのは容易ではない時代でしたが、徳川幕府の支援を受けて6回にわたり、各地に採薬調査を行うことができたのです。当時の記録は報告書にあたる「採薬記」に記され、今に伝えられています。本草学者たちにとってはこの上もない研究資料でした。「採薬記」には多くの植物、鉱物名が書かれていて、当時の採取の様子や自然環境を伝えてくれます。

 第一回の常陸、下野、日光採薬の旅は、江戸時代の4月から5月のちょうど今頃、青葉若葉の美しい季節でした。蘭山は門人たちとともに野山を歩き、さまざまな植物を採取し調査をしたのでした。これは41日間の旅で、筑波山、足尾銅山、男体山、大野山、温泉山、太郎岳に登るといったハードな毎日でした。お天気のいい日ばかりでなく、険しい山道もあり、ウォーキングと言うよりクロスカントリーだったかもしれませんね。もっとも、蘭山は日頃から野外をよく歩いていたので、晩年は健康で過ごせ、長寿を全うしたのかもしれません。

 当館の企画展では、蘭山の本草学の歩みをご紹介しています。企画展をご覧いただき、野山を歩いた本草学者について、思いをめぐらしていただけたらと思います。
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