マイセトーマ:一人ひとりと向き合い、知識を伝える
AAR Japan 梶野氏からの現地レポート

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2019年3月15日掲載

手足を失う、マイセトーマ
スーダン共和国では、2005年に南北間の内戦が終結しましたが、未だ内戦中に埋められた地雷や不発弾により、多くの方が被害にあっています。そこで、特定非営利活動法人 難民を助ける会(以下AAR)は2006年8月より、地雷や不発弾から身を守るための教育や被害者支援を行っています。2012年、地雷被害者に関する情報収集を行うために国立義肢センターを訪問した際、地雷に加えて、スーダンではマイセトーマによって手足を失う人が多くいることが分かりました。

マイセトーマは、筋肉や骨を冒していく感染症です。手や足など、身体の一部に炎症を起こし、ゆっくりとではありますが進行すると患部が非常に大きくなり、日常生活に支障をきたします。また、骨にまで届けば強く痛み、症状が重くなれば、手や足を切断しなければならないこともあります。

スーダンはマイセトーマの研究が進んでいる国ですが、そのような国の中でさえも、マイセトーマという病気はあまり知られていません。そのために、医学的根拠のない処置が行われて症状を悪化させたり、感染した方が差別を受けるということも起こっています。そこでAARでは2013年からマイセトーマの症状と重症化予防のための知識を伝える活動、手術チームの派遣、義肢の供与・リハビリ提供を開始しました。

1人ひとりに、知識を伝えて歩く
AARでは、患者が多いと言われる白ナイル州とセンナール州にて、人の多く集まる学校やモスク(イスラム教の寺院)、水汲み場、さらには民家をまわり、イラストを使いながら、マイセトーマについての知識と早めの治療の大切さ、重症化予防の方法を丁寧に伝えています。

子どもたちにマイセトーマについてお話しするAARスタッフ

ノート型の教材を家に持ち帰ることで、家族にも知識が伝わります

スーダンの地方では、テレビや新聞といった、一度にたくさんの人に情報を伝える手段はなく、誤解のないかたちで知識を広めるには、直接会ってお話をするしかありません。マイセトーマについて知る人はごく少なく、皆さん真剣に話を聞いてくれます。新しい情報を得る機会が限られているためか、しっかりと吸収しようとする姿勢があるように感じます。そして、伝わったメッセージは、人を介して少しずつ広がります。
あるとき、スタッフが同じようにマイセトーマの説明をしていると、その症状について非常にしっかりとした知識をもったお母さんがいました。不思議に思ってどこで知ったのかを聞いたところ、過去にAARスタッフの説明を聞いていたお子さんが、家に帰ってそのお母さんに伝えていたそうです。伝えた知識が着実に根付いていくことを実感するエピソードでした。
年間250人~600人の方にお話をし、これまでに計3,451人の方々にマイセトーマについての知識を伝えました。

首都から派遣された医師が無料で手術を提供
マイセトーマの症状が進行して患部が大きくなると、手術によって取り除く必要がありますが、手術は首都ハルツームの特定の病院でしか受けることはできません。また、治療のためには数日間首都に滞在しなければなりません。しかし、その交通費や滞在費を工面できる人や、その期間家庭や仕事(主に農業や畜産業)を離れられる人はあまりいません。その結果、マイセトーマに感染したことを知っても、治療せずに放置して重症となってしまうことも少なくありません。そこでAARでは、ハルツームからマイセトーマの治療の経験がある医師や医療スタッフを村に派遣し、外科手術を無料で実施しています。

手術を受けた18歳の男性は、10歳頃にマイセトーマに罹患し、特に最近は痛みが強く、眠ることも難しかったのですが、手術を終えたあとは久しぶりに十分な睡眠を取り、食事を美味しく感じることができたそうです。彼の身のまわりにはまだマイセトーマの感染が疑われる人たちがいるそうで、こうした人たちに医療機関での受診を勧めると話してくれました。

手術を受けた男性

また、マイセトーマにより手足を失い、特に経済的に困難な状況にある方に対し、首都ハルツームの国立義肢センターにて、義肢製造とリハビリを1ヵ月ほどかけて行っています。
当会の活動はとても地道で、支援できる方の数にも限りがあります。それでも、一人でも多くの方にマイセトーマについて伝え、治療の機会を提供できるよう、活動を続けています。

レポーター

梶野 杏奈

プログラム・コーディネーター
特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan) 

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