非財務資本の見える化
DEC錠無償提供の製品インパクト会計

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2023年1月20日掲載

エーザイは、2010年から顧みられない熱帯病(NTDs)の一つであるリンパ系フィラリア症(LF)の制圧活動に取り組んでいます。世界保健機関(WHO)はLF制圧に向けて、蔓延国において治療薬の集団投与(MDA)を実施しています。MDAに用いられる3種類の治療薬のうち、「ジエチルカルバマジン(DEC)錠」は世界的に供給不足状態にあったため、制圧に向けた大きな障害となっていました。エーザイは、高品質なDEC錠を製造し、WHOを通して蔓延国に無償提供するなど、LFの制圧に向けた様々な活動を行っています。
 当社のDEC錠無償提供の社会的インパクトについて、柳良平氏、デビット・フリーバーグ氏が、インパクト加重会計(IWA)方式で計算しました(図表1、2)

  • *

    柳良平・デビッドフリーバーグ、月刊資本市場2022年9月号「顧みられない熱帯病治療薬無償配布のESG会計 ~グローバルヘルスの「製品インパクト会計」の新機軸~(https://www.camri.or.jp/pages/251/)
    柳氏は早稲田大学客員教授で元エーザイチーフフィナンシャルオフィサー(CFO)、フリーバーグ氏はハーバードビジネススクールのIWAI創設メンバーの一人

当社は本研究対象期間の2014年から2018年の5年間で、16億錠のDEC錠を開発途上国25カ国で無償提供しました。無償提供の効果によって創出した社会的なインパクトは、約7兆円にのぼると算出されました(図表1)。この数値は薬剤により患者様および感染が回避できる方が取り戻せる労働時間に最低賃金を乗じ、対象者数および平均余命を掛け合わせ、節減できるヘルスケアコストも加味し試算されました。

図表1 DEC錠無償提供の社会的インパクト

(単位:百万円)

 ライフタイムの社会的インパクト年間平均の社会的インパクト
Benefit Cohort 1*1 7,696,728 178,994
Benefit Cohort 2*2 5,072,366 117,962
Benefit Cohort 3*3 765,921 23,210
社会的インパクトの合計 13,535,015 320,165
エーザイの貢献による社会的インパクト創造 6,767,507 160,083

(出典)柳・フリーバーグ(2022)

  • *1

    Benefit Cohort 1: 薬剤集団投与(MDA)によるリスク人口低減によりLFに感染することが避けられた人々

  • *2

    Benefit Cohort 2: LFに感染しながらも無症候性から臨床疾患の状態への病状の悪化が回避できた人々

  • *3

    Benefit Cohort 3: LFに感染して臨床疾患の状態にありながらもさらなる病状の悪化を回避できた人々

このように、当社のDEC錠無償提供による社会的インパクトは約7兆円と試算され、これを平均余命(Benefit Cohort 1、2では43年、Benefit Cohort3では33年)で割ることで、当社貢献分の年平均の社会的インパクトを計算すると年間約1,600億円と算出することができます。この約1,600億円を価値創造として財務会計上のEBITDAに加算すると、当社のEBITDAはおおよそ2倍程度になり、本源的企業価値は約2倍と示唆されます(図表2)。製品インパクト会計では、NTDsのひとつであるLFの治療薬DEC錠の無償提供は大きな企業価値を創出していることになります。また、これは世界初のグローバルヘルスの製品インパクトの定量化、開示となります。

図表2 DEC錠無償提供のインパクト加重会計(エーザイの製品インパクト会計)

(単位:百万円)

 FY2018FY2019FY2020
売上収益 642,834 695,621 645,942
EBITDA 120,805 163,618 92,877
DEC錠の製品インパクト 160,083 160,083 160,083
インパクト加重会計の総利益 280,888 323,701 252,960
売上収益に対するインパクトの比率(%) 25% 23% 25%
財務会計上のEBITDAに対するインパクトの比率(%) 133% 98% 172%
(出典)柳・フリーバーグ(2022)
 

製品インパクト会計の前提について

  • WHOとの契約に基づく2014年から2018年の5年間の当社のDEC錠の無償提供実績の社会的インパクトをIWA方式で定量化。
  •  当該5年間のDEC錠の無償提供は16億錠、総投資額(製造コスト)は約24億円、GSKのLF治療薬との併用療法によるMDAで開発途上国25カ国へのDEC錠提供。
  • WHOガイドラインでは、1回のMDAでDEC錠は一人当たり平均2.5錠が服用されており(体重により変動)、年1回5年のMDAによりLFはコントロールできる設計となっている。当社は当該5年間で16億錠のDEC錠を提供し、1.5億人が服用した。
    服用者数をもとにTurnerら**のモデルを応用し、760万人が慢性的なLFを回避、LFの急性期についても10億回の発作が回避できると算出した。

  • 当社のジエチルカルバマジン(DEC)とGSKのアルベンダゾールの2つのLF治療薬の2剤併用でのMDAを行った時期、国・地域に限定し計算している。その社会的インパクトの貢献を50:50に帰属するものと仮定して、全体のインパクトの半分を当社の社会的インパクト創造とした。

**Turner et al., Infectious Diseases of Poverty (2016) 5:54

 

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