エーザイのグローバルヘルスへの取り組み ― 創薬に取り組む研究者インタビュー

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2023年8月25日掲載

エーザイにとってグローバルヘルスは、脳神経、がん領域と並ぶ第三の疾患領域と位置付けられています。エーザイは、グローバルヘルスに対する取り組みを 2000 年代の初頭より開始しました。新薬の創出を通じて、熱帯病蔓延国の健康憂慮の解消と医療較差の是正を図り、「社会善」を効率的に達成することを使命としています。

Eisai Inc. のVice Presidentであり、DHBL(Deep Human Biology Learning)のMicrobes & Host Defense Domain副責任者であるFabian Gusovsky博士と彼のチームメンバーに、エーザイのグローバルヘルスへの取り組みについてインタビューしました。 
左から:Eisai Inc.のグローバルヘルスリサーチ部門のJulian Peat、Fabian Gusovsky、Jeannette Van Der Velde 
エーザイがグローバルヘルス分野で創薬を始めた経緯を教えてください。

Dr. Gusovsky: 2000 年代初め、主に低・中所得国に影響を及ぼす熱帯病に対する新薬開発は進んでいませんでした。hhc 理念を標榜する製薬企業の研究者としてこれを無視することはできず、熱帯病の新薬開発に着手しました。エーザイ筑波研究所において、抗真菌薬の標的分子として同定したタンパク質「GWT1」が、マラリアの原因となる原虫にも存在することを発見しました。このタンパク質を標的とした薬剤の開発に着手し、その結果、マラリア原虫GWT1阻害剤であるE1511が2021年に臨床試験の候補品として選択されました。
2003年、ベネズエラ科学研究所のウルビナ教授によって、エーザイ筑波研究所発の抗真菌剤ラブコナゾールがシャーガス病の原因となる寄生虫(クルーズトリパノソーマ)に対して強力な活性を示したことが報告されました。この発見が、DNDiとの連携によるボリビアにおけるシャーガス病に対するホスラブコナゾール(E1224、ラブコナゾールのプロドラッグ)の臨床試験に繋がりました。残念ながら、シャーガス病に対しては、ホスラブコナゾールの既存の治療法に対する優位性は示されませんでしたが、このプロジェクトを通じてDNDiとの強い関係が確立され、その後のマイセトーマの新薬開発におけるDNDi、スーダンのマイセトーマ研究センターや公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)との継続的な協働につながりました。

エーザイのグローバルヘルス分野におけるパイプラインについて教えてください。


Dr. Gusovsky: 私達はグローバルにおいて強力なパイプラインを保有しています。当社は、マラリアや結核、さらにはマイセトーマ、シャーガス病、リーシュマニア症、フィラリア症などの顧みられない熱帯病(Neglected tropical diseases:NTDs)に対する新薬の開発に取り組んでいます。

マイセトーマ患者の写真 (CDC)

マイセトーマは進行性の慢性皮下感染症で、細菌性または真菌性に分類されます。患部の激しい変形と障害、および重い病状を特徴とします。マイセトーマは、2016 年に世界保健機関 (WHO) によって 18 番目のNTDsとして認定されました。感染経路や発生率などの基本的な情報が不足しているため、「最も顧みられていない」熱帯病の一つと言われています。
真菌性マイセトーマの治癒率は、現在の治療法(治療薬+手術)では 35% 1であり、治療が奏功しない場合には患部の切断が一般的です。スーダンや他のアフリカ諸国、インドやラテンアメリカにおいても蔓延しています。
2017年、エーザイは、経口ホスラブコナゾールの有効性を評価するため、スーダンで真菌性マイセトーマに対する世界で初めての二重盲検無作為化臨床第Ⅱ相試験を開始しました。最近完了した本臨床試験において、ホスラブコナゾールは良好な治癒率と安全性プロファイルを示しました。ホスラブコナゾールは、週一回の投与で、安全性プロファイルも優れているため、既存の治療法に比べて改善が期待されています。GHIT Fund は、スーダンにおけるホスラブコナゾールの薬事承認と、患者様がこの薬を使用しやすくするために必要な準備活動を支援する助成金の交付を決定しました。

グローバルヘルスにおける創薬で直面している課題は何ですか?また、それらの課題をどのように克服しますか? 

Dr. Gusovsky: グローバルヘルスにおける医薬品開発には 3 つの大きな課題があります。

  • 1.
    重要な臨床試験を通じてプロジェクトを推進するための革新的な資金調達モデルの必要性
  • 2.
    蔓延国で臨床研究を行うためのインフラ整備の必要性
  • 3.
    新製品が入手可能になったときに医薬品へのアクセスを促進するためのリソースの必要性

革新的な資金調達モデルの確立のために、私達は社内外の多くの組織と連携しています。日本の製薬会社や日本政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが2013年4月に設立した官民パートナーシップであるGHIT Fundなどの外部パートナーとも連携しています。また、米国、英国、欧州、日本、南米の研究機関で働く、グローバルヘルスにおける各分野の主要な科学者とも協働しています。GHIT Fund からの支援を受けて開始されたプロジェクトのいくつかは臨床での開発に至りました。さらに、米国国防総省や英国医学研究評議会などからも資金調達を行っています。

グローバルヘルス分野で将来達成したいことを教えてください。

Dr. Peat:私達は、NTDsにおける満たされていない膨大なニーズに対処するための医薬品開発と提供に重点を置いており、これらを革新的なアプローチにより効果的に実行したいと考えています。私達の戦略にはいくつかの重要な要素があります。まず、一流の研究者、非営利団体、さらには他の製薬会社とも緊密に連携し、それぞれのケースで相乗効果を追求しています。第二に、当社は、先進的な核酸治療薬や迅速な化合物スクリーニングのための AI など、先進的な技術をグローバルヘルスにも応用しています。第三に、私達は革新的な資金調達モデルを活用してプログラムを支援しています。さらに、研究開発とアクセスの両方に幅広い外部資金と新しいメカニズムの活用をめざします。当社は、直接投資や、アフリカのヘルスケア関連の新興企業に投資するAAIC InvestmentへのLimited Partnership投資などを通じ、医療環境の整備やエコシステムの構築の一端も担っています。

私にとっての目標は、私達の取り組みがエーザイ初の熱帯病に対する新しい治療法につながることです。たとえば、マイセトーマに対するホスラブコナゾール(DNDiおよびマイセトーマ研究センターとの協働)やマラリアに対するSJ733(ケンタッキー大学との協働)など、どちらも臨床試験が順調に進んでいます。新薬の承認は私達にとって重要な成果であり、患者様にも大きな影響を与えるでしょう。さらに、私達の革新的な前臨床パイプラインを臨床研究に進めていきたいと考えています。例えば、当社では、モノクローナル抗体 (PATH、グラクソ・スミスクライン、愛媛大学との協働) とアンチセンス オリゴヌクレオチド (カリフォルニア大学サンディエゴ校と協力) の両薬剤を用いた、マラリアとの闘いに変革をもたらす可能性のある長時間作用型予防薬を開発するプログラムを行っています。また、アルゼンチンの国立ラプラタ大学 (UNLP) と協力して、AI モデルを使用してシャーガス病の新薬候補の特定の迅速化をはかっています。このプログラムは、以前に研究された化合物を再利用することで、臨床研究により迅速に進むことをめざしています。これらすべてのプログラムが差し迫った課題であるグローバルヘルスに貢献できる可能性があり、このことこそが我々にとっての大きな原動力となっています。

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