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『傷寒論』の中の病気 傷寒病 (2013.03.01 稲垣裕美)

 漢方医学では、急に発熱する病気は「傷寒病(しょうかんびょう)」と呼ばれます。現代の医学では、これらの病気はかぜの症状のほか、インフルエンザや腸チフス、マラリアなどの発熱を伴う感染症も含まれていたと考えられています。
 『傷寒論』は、2世紀末の中国・後漢代の医師・張仲景(ちょうちゅうけい)がそれまでの古典を参照し、自身の治療経験を合わせて傷寒病の治療法をまとめたものです。彼は、迷信深い人々が医術に頼らず、医師も治療法の研究不足であると批判しましたが、同時に疫病の流行により多くの犠牲者が出たことに心を痛め、『傷寒論』を著したと伝えられています。
 『傷寒論』によれば、傷寒病は病状の変化が早い病気とされ、6つのタイプに分けられています。そしてそのタイプ別に、典型的な症状、誤った診断による症状変化、経過が長引いた場合、合併した症状について、治療法や処方、治療の原則が記されています。
 6タイプの症状のうち、発熱して脈が浮き、頭痛がしてうなじが強張り、悪寒がある症状を太陽病と呼び、この中で汗が出ず、悪風(寒さをきらう)の症状がある場合を「葛根湯(かっこんとう)の証」と呼びます。
 「証」は単なる症状を指すのではなく、その症状の現れ方も含まれています。「証」を決定するにはまず、(1)症状が現れているのは体の表面(表)か奥深い内臓(裏)か、(2)熱が多くて発熱・ほてりがある(暑)か、熱が少なくて悪寒や冷えを感じる(寒)か、(3)体に必要な気・血・水・津液(しんえき;血液以外の体液)が不足している(虚)か、多すぎる(実)かを調べます。そして、体格や体質、年齢、性別に加え、外因(外部の環境)や内因(心の変調)、不内外因(働きすぎ、外傷の有無など)、五臓六腑の変調などの要因も考慮して診断を下します。
 最近では、かぜを引いたら市販の葛根湯を使う方も多いようです。薬の外箱や説明書には、適応する「証」が記載されています。使用の際には発熱や頭痛などの症状だけで判断するのではなく、「証」が合うかどうか確認することが重要です。また、「証」は病気の進行や回復につれて変化するため、その時々の「証」に合った薬にこまめに変えていく必要があります。逆に「証」が合えば、かぜでなくても、うなじや背中が緊張して起こる慢性頭痛や肩こりに葛根湯を使うこともあります。
 漢方において、『傷寒論』は傷寒病とその治療方法を単に紹介するだけでなく、病気を「証」でとらえて診断する方法を確立した医学書であり、後世の医師がこの方法を応用して他の病気の診断ができるような基礎を作ったということができるでしょう。


張仲景の肖像(部分)
関真敬写(画)

『(宋版)傷寒論』 文政10年(1827)刊
日本では寛文8年(1668)に最初に出版されて以来、何度も刊行されている。
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