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吸入器とマスク (2009.07.03 稲垣裕美) コレクションノート 近代の医療器具とくすり


吸入器(エムワイ式)

 風邪などによりのどに炎症を起こした場合、咳が出たり、痰がからんだりする。このような場合、蒸気を吸うことで炎症が緩和されたり、湿気により痰が柔らかく出やすくなることは、古くから知られていた。

 ヨーロッパでは、安息香のチンキ剤を主成分とする薬は“修道士のバルサム”と呼ばれ、長らく去痰・鎮咳に用いられてきた。その方法は、安息香のチンキ剤を熱湯に入れてその蒸気を吸入させるものであった。安息香は、アンソクコウノキの樹皮に傷をつけ、その切り込みから滲出した樹脂で、産地により主成分が微妙に異なる。スマトラ島とタイで産出するものが有名で、インドでも古くから寺院で香料に用いられていた。1325年にインドネシアのスマトラ島を訪れたアラビアの旅行家のイブン・バツータの旅行記にも、ジャワ乳香の名で記されている。また、江戸時代中期には、日本へもオランダ船により生薬として輸入されていた。1775年にはシェーレが安息香酸を発見して、この薬品が生薬にとってかわった。

 薬液や粉薬を気道内に吹き入れる吸入療法には、吸入器が用いられた。日本へは、1877年(明治10)頃に蒸気吸入器が海外から輸入されたといわれている。医家用器械のカタログ類を見ると、大阪・道修町の医科器械商・白井松之助が1886年(明治19)に出版した『医用器械図譜』には、既に吸入装置として6種類の記載がある。
 国産品は、1896年(明治29)に内国勧業博覧会で葛木九兵衛が出展した蒸気吸入器と、松本儀兵衛が出展した吸入器が初めとされる。
 1898年(明治31)『医療器械実価表』と1909年(明治42)『医療及化学器械実価表』に「安全弁蒸気吸入器」の名前が見える。明治32年頃には、火力で蒸気を発生させて排気管から吹き出す水蒸気とともに薬液を吸入する仕組みのものと、ふいごのような装置で薬液や粉薬を噴出するものがあったといわれている。火力については、アルコール・ランプが使用された。



薬粧マスク

 マスクは咳が出る時に口元を覆うものである。
 森重孝著『家庭のなかの医療器具』によれば、日本でのマスクの広告の始まりは、1879年(明治12)に東京の医療器械商・いわしやの広告が最初とされた。1880年(明治13)の広告では「レスピトール(呼吸保護器)」の名前で「肺病またはのんど(=喉)の病める人、常に風(=風邪)ひき易き人、ぜん息、たんせき(=痰咳)、あるひは寒き風を厭(いと)わず旅行する人等に一日も欠くべからざる良器なり」と紹介されている。
 なお、この「レスピトール」という語は、住田朋久著「鼻口のみを覆うもの マスクの歴史と人類学にむけて」によれば、「呼吸器(respirator)」を意味する「レスピラートル」が正しい表記であり、マスクの歴史も1877年刊の石代十兵衛編『医術用図書』までさかのぼることができるとされる。※
 1919年(大正8)冬に流行性感冒(インフルエンザ)が全国に広がった折に、兵士を初めとして民間でも盛んにマスクを用いるようになったとされる。当初は黒色の布で作られていたが、現在ではガーゼ製、不織布製など、さまざまな素材の物が出回っている。

※本コラムは「レスピトール」の語を「レスピラートル」に修正したのにともない、加筆修正した。(2021.07.21)

<主な参考文献>
家庭のなかの医療器具 森重孝著 朝日印刷 1973
(改訂増補)明治事物起源 上・下巻 石井研堂著 春陽堂 1944
ものしり事典 医薬・飲食・言語編 日置昌一著 河出書房 1952-1954
住田朋久著「鼻口のみを覆うもの マスクの歴史と人類学にむけて」『現代思想』2020年5月号 青土社 2020 p.191-199 



吸入器

吸入器(エムワイ式)
ガラス製
昭和12年(1937)

吸入器(大学・ゴム引、胸掛布、噴霧管)
東京
金属製

吸入器(フエバー/箱入り)
フエバー体温計本舗

吸入器(無風式大学/箱入り)
優光社

吸入器(大川式安全)
大川商店 東京
金属・ガラス製 昭和20年以前

吸入器(久能式電気/箱入り)
久能木本店
東京

吸入器(KT式)
KT商会 東京
金属製 昭和20年以前

吸入器(箱入り)
アメリカ

Vapo-Cresolene
(紙箱入り)
マスク

薬粧マスク (左)
布製 昭和20年前
薬粧マスク(箱入り) (右)
箱入り 昭和20年前

マスク
布製

マスク呼吸器/紙看板
小野亀製作所
東京 紙製

マスケ(吸気強肺器)
いわしや大磯本店
東京
セルロイド・布製・箱入り
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