研究現場でのロボット活用

近年、AI技術を創薬研究に活用し、新薬創出の確度を高める取り組みが注目されています。AIは高精度なデータを大量に学習することでその予測精度が高まることから、実験データを正確にかつ継続して大量に創出することのできるロボットに期待が寄せられています。ロボットを使用することで、今まで研究員が行ってきた実験手順書はロボットのプログラムに置き換えられ、実験結果はデジタルデータとして創出されます。ロボットの活用は、データ創出に付随する実験の再現性、データインテグリティ、データの利活用促進にも貢献できます。エーザイではデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、試薬の分注などの単純な操作を行うロボットから、複数工程の一連の実験を行うロボットまで、多様なロボットを適材適所に活用して、創薬研究を実施しています。

ハイスループットスクリーニングでのロボット活用

エーザイの創薬研究では、25年以上前から、膨大な数の化合物から新薬の候補となる有用な化合物を見出す、ハイスループットスクリーニング(HTS)に取り組んでいます。手動では不可能な数の化合物管理と活性評価を行うために、エーザイにおけるロボット活用もHTSと共に進められてきました。HTSでは実験を可能な限り単純化し、規格化されたマイクロプレートのサイズまで小さくすることで、専用のロボットが試薬の分注、搬送、測定などを精度よく高速に実施します。また、これらの機器を連携させ、実験工程ごとの時間を制御することで、人手を介さずに効率的に大量のデータを取得します。このようにしてエーザイがこれまで取得してきたHTSデータは、エーザイ独自の有用な資産であり、これをAIに学習させることで新規の創薬プロジェクト推進に活用しています。一方、近年ではこれらのロボットをHTSに限定せず、小規模の創薬研究にも使用しています。人手では扱いが難しいナノリッター(1Lの10億分の1)単位の実験が身近になり、貴重なサンプルの評価など新たな活用法も見えてきています。

熟練研究者の実験を代替する実験ロボットの導入

HTSで見出された化合物やそれを起点として新たに合成された化合物は、新薬候補品としての適性を詳細に調べる必要があります。その評価法は目的とする生理現象や治療したい疾患によって異なり、熟練研究者の繊細な手の動きが求められる複雑な実験も多いため、画一的な実験を大量に行うHTSに比べて、ロボットの活用が遅れているのが現状です。そこでエーザイでは、近年製造現場で活用が進んでいる自由度の高いロボットを研究現場に導入し、複雑な実験にも対応できる実験ロボットの開発に挑戦しました。そして、ロボットインテグレーターの株式会社日立ハイテクとともに、人との協働が可能な双腕ロボットNEXTAGE®(カワダロボティクス株式会社の登録商標)を搬送車に乗せた実験ロボット「ICHIRO」を開発して活用を進めています。ICHIROは、4つのカメラを使った高精度な画像認識と、15種類の手先部品を使い分けることによって、研究員と同じ実験室内を移動しながら、研究員が使用する実験機材を用いて、研究員の実験を代替します。現在は、生理活性の評価に必要な細胞の継代や培地交換などの一連の細胞培養実験を、熟練研究者と同等もしくはそれ以上の精度で数時間に渡って連続して行っています。実験ロボット技術は未だ発展途上にあり、製造現場とは違ったライフサイエンス実験特有の課題も多くあります。エーザイは、ICHIRO開発で得たノウハウを活かして研究現場でのロボット活用を促進し、DXをより一層推進することにより、効率的な創薬を実現していきたいと考えています。

細胞培養実験ロボット「ICHIRO」(実物)