AIを活用した低分子医薬品候補のデザイン

低分子医薬品を創製する上では、病気の原因に関係する標的分子に対する直接的な作用や安全性だけでなく、経口や注射などによって体内に投与された後の、血流による治療の標的とする臓器や部位までの到達を考慮する必要があります。このような複数の要件を備えた低分子化合物を見つけるために、研究者は、
1.  化合物を合成する
2.  合成した化合物の薬効、物性、薬物動態、安全性を評価する
3.  データを解析し、次に合成する化合物を設計する
といった試行錯誤を繰り返し行います。試行錯誤は数年に及び、またそのノウハウも研究者の経験則に頼ることが多い傾向にありました。そこで、エーザイは機械学習やディープラーニング等のAI技術を活用することで、より効率的に医薬品候補品を見出すことに取り組んでいます。

AIによる化合物の評価

試行錯誤の積み重ねによって、大量の化合物についての評価データ(薬効、物性、薬物動態、安全性)が蓄積されています。蓄積したデータには、エーザイの強みであるケミストリー力が生み出した多くの知見が含まれています。そのようなデータを機械学習やディープラーニングに与え、化学構造と評価データ(薬効、物性、薬物動態、安全性)がどのような関係にあるのかを学ばせます。学習した機械学習やディープラーニングのモデルは、化合物を合成することなく、その化学構造から薬効、物性、薬物動態、安全性を予測することを可能とし、研究者による新規化合物の設計を支援します。

AIによる化合物の設計

このような薬効、物性、薬物動態、安全性を予測するモデルは、数十万化合物を1日かからずに評価することができます。この特徴を生かし、深層生成モデルと組み合わせることで、コンピュータ上で発生させた膨大な数の化合物から所望の性質(予測プロファイル)をもった化合物を特定し、研究者に提案します。研究者は、提案内容を確認し、フィードバックします(AIへの指示変更など)。フィードバックを受け、AIは次の提案を行います。複数の研究プロジェクトにおいて、このようなAIと研究者の協働によって設計した化合物を、実際の合成および化合物評価のプロセスに進めることで、効率的な医薬品候補品の創出に取り組んでいます。