研究開発体制

バイオロジー、情報科学、デジタル技術の進歩により、疾患の発症に先立って生体内で生じる変化が解明されつつあります。これに伴い医療は、「発症してから治療するもの」から、「発症前から変化を検出し、制御するもの」へと大きく変わろうとしています。こうした変化の中、様々な疾患病理を精緻に把握して最適な治療法を創出するためには、疾患を単独の事象ではなく連続体(疾患連続体, Disease Continuum)として捉えて、根本原因にアプローチすることが重要です。

DHBL(Deep Human Biology Learning)創薬は、疾患に紐づくゲノム情報をはじめ、細胞レベルのメカニズムや病態生理など、ヒトの生体内で生じる生物学的変化(Human Biology)への深い理解を創薬の起点に据える当社独自の研究開発アプローチです。

チーフサイエンティフィックオフィサー (執行役 井戸克俊)からのメッセージ

エーザイは、神経領域(ニューロロジー)・がん領域(オンコロジー)で長年にわたる創薬の歴史を誇ります。年間500以上のhhc活動を通じて共感した患者様の真のニーズが私たち研究者を奮起させ、患者様貢献への強い想いが脳神経領域では「アリセプト」、「フィコンパ」、「デエビゴ」、がん剤領域では「ハラヴェン」、「レンビマ」、「タスフィゴ」といった自社創製の新薬を生み出す原動力となりました。さらには、創薬コンセプトを裏打ちする非臨床薬効モデルへのこだわり、様々なモダリティを確実に形にするクラフトマンシップ、最新のモレキュラープロファイリング技術を活かしたバイオマーカー研究、適切な患者様を対象とした臨床研究―これらの当社の強みをhhc理念に根差した信念と強いリーダーシップで結実させることにより、当事者様に早期アルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ」をお届けすることができました。「レケンビ」は、AD病理の一つであるアミロイドβ(Aβ)のうち、毒性が示唆されるAβプロトフィブリルに結合し、脳内の可溶性および非可溶性Aβ凝集体を減少させることによりADによる軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment, MCI)および軽度の認知症の進行を抑制する効果を示します。

50万人以上の患者様に貢献したレンビマやADのスタンダードケアである「アリセプト」のリアルワールドデータ(RWD)、数々のAD疾患修飾薬候補品の臨床データ、AD発症前から後期に至る「レケンビ」のRWDなど、私たちの手中には疾患のさまざまなステージにおける高質なヒューマンバイオロジーデータが集積され続けており、DHBLではこのユニークな知見を活用して創薬活動を積極的かつ効率的に推進しています。特にトランスレーション研究では、複数のバイオマーカー(血液、画像、遺伝子、デジタルなど)を活用し、疾患連続体における病態生理学の深い理解を実現することで他社にはない画期的新薬の創出を可能にしています。

DHBL体制

2022年10月に発足したDHBL部門は、ヒューマンバイオロジーデータを起点とするエーザイ独自の創薬体制です。中長期的な研究開発力強化をめざして2025年度にその体制を刷新し、あらゆる場面でサイエンスに基づく本質的な議論を徹底するとともに、創薬基盤技術の効率的かつ戦略的な活用を進めて創薬研究の効率性向上に努めています。また、持続的に患者様価値を創出するため、迅速・的確な意思決定、リソース配分の最適化、透明性の高い情報共有を重視するマネジメントを実践して創薬活動の加速を図っています(図1)。

  

図1 DHBL体制図(2026年4月1日現在)

DHBL体制では、チーフサイエンティフィックオフィサー(CSO)のもと、「ヒューマンバイオロジークリエーションハブ(図2)」が新規創薬仮説の立案・検証、非臨床-臨床研究の連携強化、バイオマーカーによる臨床試験の加速と成功確度の向上、さらにはメディカル部門との連携による診断技術の開発に取り組んでいます。

  

図2 ヒューマンバイオロジークリエーションハブを中心としたDHBL創薬

    

探索研究は、ニューロロジーとオンコロジーの2大領域、ならびにグローバルヘルス領域に注力しています。非臨床薬理のエキスパートにより構成される「ニューロロジー/オンコロジーディスカバリー、グローバルヘルス」、AI(Artificial Intelligence, AI) /ML(Machine Learning, ML)や構造生物学等の最新技術を駆使する有機合成研究機能「インテグレイティッドケミストリー」、先進的な創薬モダリティ研究や高度な実験的検証技術開発を担う「コンセプトクリエーションテクノロジー」が密に連携して成功確度の高い創薬仮説を確立し、そして見極め、迅速にその検証を繰り返すことで探索プロジェクトの早期臨床導入をめざしています。またアカデミアやベンチャー企業との共同研究にも積極的に取り組み(エクスターナルイノベーション)、最先端技術の導入や社外パートナーとの協業を進めています。

DHBL本部は、ポートフォリオ戦略の立案・推進や研究開発資源の最適配分を担い、各研究機能が効率的かつ最短で承認取得を達成できるよう研究開発機能全体をマネジメントしています。また、デジタルイノベーションを積極的に推進し、研究開発ITや人工知能/機械学習の積極的な活用、自社の臨床研究から得られたヒューマンバイオロジーデータを活用したユニークな創薬を追求しています。さらに、研究者の士気向上と成長を後押しするため、コミュニケーションの活性化を心がけており、新規性・進歩性の高い挑戦にリスクを取って取り組む姿勢や、科学的に妥当な早期の意思決定を高く評価する文化の醸成にも力を注いでいます。

 

私たちは、強いリーダーシップとhhc理念に基づく信念に裏打ちされた使命感を共有し、全メンバーが一枚岩の“Monolith”として結束することで、「革新的新薬を一日も早く、効率的かつ継続的に患者様・生活者様へ届け、人々の健康憂慮の解消に貢献する」という揺るぎないミッションに日々挑戦しています。今後もDHBL体制のアドバンテージとこれまでに磨き上げた技術を最大限に活用し、患者様・生活者様の未来を切り拓く創薬に誠心誠意取り組んでまいります。引き続き、皆様の温かいご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。