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昨年のSARSに続いて、今年、世界を震撼させたのは鳥インフルエンザである。最近話題の鳥インフルエンザ、SARS、コイヘルペス、さらには、AIDS、C型肝炎、エボラ熱などは、すべてウィルスによる感染症である。ウィルスはナノ(1ミリの100万分の1)オーダーの最も小さな生物と言われており、1940年代の電子顕微鏡の実用化により実態を見ることができるようになった。他の微生物と異なり、遺伝子情報が入っている核酸としてDNAかRNAのどちらかしかもっていない。厄介なことに、ウィルスは細菌から動植物にいたるあらゆる生物の生きた細胞の中に寄生する可能性があり、細胞の中で一挙に増える。さらに、感染している間に遺伝子の変異を起こして性質を変える恐れがあり、鳥インフルエンザも変異による人への感染が懸念されている。細菌には化学療法剤が有効であるが、ごく一部を除き、現在でもウィルスに直接効果をもつ薬剤はなく、ワクチンによる予防が効果を発揮している。
二昔前までの代表的なウィルス感染症は「天然痘」※である。B.C.1157年に死亡したエジプトのラムセス五世のミイラに、天然痘の痘疱が見られることはよく知られている。1796年にジェンナーが発見した「牛痘種痘法」をもとに予防ワクチンが普及し、1980年5月8日のWHOによる「天然痘根絶宣言」が発せられるまで、3000年以上にわたって世界中で激しい流行を繰り返してきた。18世紀末の欧州では、毎年20〜60万人が天然痘で死亡したという。わが国には奈良時代に仏教伝来と共に伝わり、その後頻繁に大流行の歴史が刻まれている。聖武天皇が752年に東大寺大仏を建立したのも、赤班瘡(あかもがさ、天然痘)の大流行を沈静化する目的であった。まさに、史上最悪のウィルスであった。
かつて人々は、天然痘は神(疱瘡神)の仕業であり、神の使いである鬼が赤を嫌うと信じられて、緋の衣を着せ、赤絵・赤塗りのおもちゃなど赤ずくめにしたという。また、弓の名人の源為朝やオムルー(南米ブラジル)など強力な力を持つ者に頼り祈ったが、もとより太刀打ちできるはずもなかった。
しかし、天然痘ウィルスにもラッキーな面があった。世界中のどこで流行した天然痘ウィルスも、また、どこでつくられたワクチニアウィルス(無毒化した天然痘ウィルス、ジェンナーが使用した牛痘ウィルスとは別)も遺伝子がほとんど変化しなかった。天然痘根絶という快挙をなし得た理由の一つである。
科学が進歩した現代においても、人類と“最小にして最大の敵・ウィルス”との戦いは終わりを告げていない。否、新たに出現する病原性ウィルスが、狭くなった地球を一気に駆け巡り、多くの犠牲者を出す懸念すらある。
※天然痘

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