奈良絵を挿絵とした絵本の一種。室町末期から江戸前期にかけて作られ、御伽草子などを主とする奈良絵本である。題簽に「わたりかもり上」とあるが、内容から見て「舞の本」(※)の一種である『夜討曽我』と判じられる。奈良絵本その7が「夜うちそか上」という題簽を備えるものの、内容は『和田酒盛』であることから比べ合せて推考すると、両者の間で題簽の入れ替わりが起きたのではないかと思われる。
どちらも曽我兄弟の事跡を題材とした曽我物であることから判明しづらかったものか。冒頭部から俣野と真田の力競べまでを記しているが、挿絵は全て抜き取られている。
(※)「舞の本」は幸若舞の語り台本を読み物用に転用したものの称である。幸若舞曲は本来は演劇であるが、その詞章は御伽草子と似ており、さかんに絵巻や奈良絵本に仕立てられた。 <解題:神谷勝広> |