茶碗にはたくさんの蝿がたかり、どぶにはボウフラがわいている―それは戦前の日本では珍しくない光景であった。
写真の資料は戦前の殺虫剤のポスターで、蝿や蚊の駆除を奨励する内容である。使用例には、便所やゴミ捨て場への噴霧だけでなく、畳や布団、飼育する鶏の卵、小鳥、虱(しらみ)のわいた頭部への使用が挙げられている。
当時は殺虫剤の過剰使用の心配よりも、感染症を媒介する害虫駆除が優先であった。ポスターの登場人物は「(殺虫剤を使わない家庭は)病気をたびたびするわい」と考え、「蚊帳(かや)なしで寝られる」殺虫剤を“文化の賜物”と歓迎している。
昨今の国内でのデング熱発生のニュースは衛生的な生活に慣れた日本人に衝撃を与えた。しかし、ここにきて強い殺虫剤の過剰使用に戻ることは、生態系の破壊や人体への悪影響が懸念される。未知の病気への恐怖はあるが、正しい情報を元に冷静に対処すべきであろう。 |
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ポスター「フマキラー」 大下回春堂 昭和20年以前 |