梅毒は現在も世界中で、猛威をふるう性病である。19世紀までは梅毒を根本から治療する薬はなく、皮膚の症状を多少緩和する薬や対症療法しかなかった。
1910年にドイツの医学者P.エールリヒと日本の秦(はた) 佐八郎らが開発した梅毒治療薬サルバルサンは、化学療法剤※の第1号となった。秦らは多数の有機砒素化合物を合成し、梅毒に対する効果を調べ、606番目のものが最も効果が高く、かつ毒性が弱いことを発見した。ドイツのヘキスト社からサルバルサン(ラテン語でSalvareは「救う」の意味)の名で市販された。
日本はドイツからこの薬を輸入していたが、第一次世界大戦で輸入が途絶され、大正元年(1913)に国産のサルバルサン製剤としてタンバルサン、アーセミンなどの名称で商品化された。戦後ペニシリンをはじめとする各種抗生物質が開発されるまで、サルバルサンは梅毒の治療の中心となったのである。
※ 化学療法剤・・・化学的に合成された薬剤
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サルバルサン剤「ネオネオアーセミン」 陸軍衛生材料廠
「ネオサルバルサン」 Bayer |