毒草が起源の薬は少なくない。ナス科のヒヨスやチョウセンアサガオに含まれるアトロピンもその一つで大量(成人で推定経口致死量は100mg)では中枢神経系に作用し呼吸が速くなり、血圧低下をきたし死に至る。微量であれば副交感神経の働きを抑制するため、眼底検査の散瞳剤として、その他に麻酔の前投薬などに使われる。
資料は昭和初期の薬品である。神経に作用する毒ガス兵器が脅威とされた当時、アトロピンは神経ガス兵器の治療薬としても採用された。
江戸時代の華岡青洲は全身麻酔薬に、チョウセンアサガオ(曼陀羅華(まんだらげ))やトリカブトなど6種類の生薬を配合した。主成分のアトロピンが致死量を超えないように、青洲は量の調整に腐心したといわれる。「毒」と「薬」は紙一重というが、まさに「毒を以て毒を制す」であったといえる。
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アトロピン注
硫酸アトロピン |