縫合を伴う手術の歴史は古く、紀元前3世紀のエジプトでは亜麻の縫合糸が使われていたようだ。縫合糸は絹など自然に分解される天然繊維※が良いと思われているようだが、意外とそうでもないらしい。絹糸や動物の腸で作った糸は、細菌感染や炎症などのアレルギー反応を起こしやすいからだ。
資料は戦前のホルマリン絹糸と昭和30年代の縫合絹糸である。ホルマリン処理により滅菌と同時に化学的に架橋されて適度なコシのある繊維に変化するため、なにも処理しない絹の縫合糸よりは扱いやすいと思われるが、縫合による癒着などのトラブルを完全に回避するのは難しかった。以降、天然繊維の縫合糸は激減した。昭和13年(1938)に発明されたナイロン繊維が日本でも普及し、手術に対するイメージを一変させたからである。水を吸わず、絹より細くて丈夫な特性は、天然繊維で生じるさまざまなトラブルを回避し、縫合の傷跡を目立たなくさせたのである。
※ 縫合糸には生体で分解、吸収される吸収系糸と非吸収系糸がある。 |
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ホルマリン絹糸
ナショナル縫合絹糸 |