中国・明代の医学書には、発熱時に濡れた布を胸に載せる対処法の記載がある。より効率よく冷やせる氷は、庶民は冬場にしか入手できなかった。ところが近代になると氷の工業生産が始まり、自然環境に依存せず氷が入手できるようになった。
日本では、明治17年(1884)に氷の生産が開始されると、発熱時には病院だけでなく一般家庭で外国製の動物の膀胱(ぼうこう)製氷嚢や、国産の紙製氷嚢が使用されるようになった。やがて明治27年(1894)にはゴム製氷枕、明治31年(1898)にはゴム製氷嚢が登場した。第二次世界大戦の終戦直後は物資不足のため、和紙を貼り合わせた氷嚢が一時的に復活している。
実際のところ、氷枕や氷嚢で頭やおでこを冷やすのは、体温を下げる効率がさほど高いわけではなく、動脈に近い首や腋(わき)などを冷やすほうが効果的である。近年ではスポーツ時のアイシングや、炎症局部の冷却に氷嚢を使うことが多くなった。冷やすところがどこであれ、冷たい氷嚢の気持ちよさは今も昔も変わらない。
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