中国医学では生薬や食物には体を温めるものと冷やすものがあり、甘い、苦いなどの五味が内臓(五臓)の働きに影響するという考え方がある。適切な食事は病気を未然に防ぎ、治すと考えたのである。日本ではこうした五性五味などの思想はあまり根付かず、一緒に食べるとよくないとされる「食い合わせ」だけが広まったようである。
「食い合わせ」は平安末期頃から紹介され、江戸時代の貝原益軒著『養生訓』でも「ウサギの肉に生姜」などが記されている。しかしこのような知識を実践できたのは、武士や豪商などの豊かな階層に限られ、庶民には一般的ではなかったと思われる。
明治以降、「食い合わせ」は庶民にも広まり、薬の広告にもよく登場した。その情報はむしろ広告よりも重宝された。写真のちらしは大正後期以降のものである。近代的な薬剤や西洋の栄養学などを受け入れつつも、「食い合わせ」による中毒を報じたちらしの記事は、当時の人々には真実味のある恐ろしい話に思えたのであろう。非合理で迷信的な「食い合わせ」のイラストに囲まれて、「虫下しにサントニン」といった科学的な処方も記載されている。まさに玉石混交といったところである。
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ちらし「キンビシ」 キンビシ薬行/津江田薬店 広島 大正後期 |