「和胸丸」は明治時代に販売されたと思われる胃腸薬である。錦絵の広告には適応症として、腹痛、吐瀉(おう吐と下痢)、毒消(どくけし;食あたりを治す)、旅中水毒(旅行中の水あたり)、積気(しゃくき;胸や腹の激痛)、胸張(むねはり;胸が張るような苦しい症状)、大食毒(食べ過ぎ)、留飲(りゅういん;慢性胃炎)、酒毒(しゅどく;急性アルコール中毒)、宿酔(二日酔い)への効能がイラストで描かれている。
写実性や上品さよりも、症状をより分かりやすく、目立つようアピールする工夫が施されている。このような明治時代の錦絵広告は、当時の新聞風刺画などの影響を受けたものであり、市販薬に限らずさまざまな分野で広告媒体として庶民に親しまれた。
そのほかにも、船酔いや小児五疳(しょうにごかん;疳の虫)、気鬱・気無性(きうつ、きぶしょう;気分がふさぐこと)など一見胃腸とは無関係な症状にも効果があるとされ、五臓六腑(内臓)が精神にも影響するという漢方医学の考え方が色濃く残っている。現代の医学的知見からは根拠に欠けるようにも見えるが、明治3年に制度化された売薬取締規制の販売承認を示す「官許」の文字が見られるのが興味深い。現代の薬事制度へとつながる黎明期のおおらかさがうかがえる。
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広告「和胸丸」 広島・天命堂 明治時代 |