16世紀半ばに南蛮貿易が始まると、さまざまな文物が日本へ流入した。「らんびき」もそのひとつである。「らんびき」は蒸留器であり、ポルトガル語の「Alambique」がなまった言葉とされる。漢字では「蘭引」と書いた。
西洋では蒸留器はガラス製であったが、日本の「らんびき」は陶器で作られた水冷式の蒸留器である。そのパーツは3つに分かれ、下から沸騰槽・蒸留槽・冷却槽となり、最上部に蓋をのせる。沸騰槽で沸かした湯の水蒸気に、蒸留槽の薬草の成分が混じり、冷却槽の内側で結露する。その水滴が冷却槽の壁をつたって、蒸留槽下部の管から外へ排出される仕組みである。(図参照)
初期のオランダ医学では、植物の精油は搾ったり、液体に浸して取り出すことが多く、蒸留による製造は少なかったといわれている。日本における「らんびき」の主な用途は、自家用の焼酒(焼酎)製造や、薔薇水など化粧水の製造であった。幕末には瀬戸物屋の店先に「らんびき」が並んでいたという話も残されていることから、身近な道具であったことが想像される。製造した蒸留酒は飲用のほか、医学の分野では、温めた焼酒の中に手ぬぐいをひたし、何枚か交換しながら傷を洗浄したといわれている。
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らんびき(江戸時代)
らんびきの構造 冷却槽の上部に貯めた水で蒸気を冷やす仕組み。水が温まると冷却槽下部の排水口より水を出して、上部より冷たい水を補充する。 |