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葛根湯は、風邪薬として有名な漢方薬です。また、漢方薬としても最も知られている薬といえるかもしれません。その歴史は古く、紀元200年頃、中国の張仲景によって著された医書『傷寒論(しょうかんろん)』や『金匱要略(きんきようりゃく)』の中でもすでに紹介されており、風邪の初期症状や肩こりなどを和らげるものとして伝わりました。
その名称どおり、クズの根(葛根)が主成分となっています。昔から民間療法として風邪を引いた時、クズ湯やショウガ湯などを飲んで体を温めたように、クズの他にショウガの根(生姜)、シナモン(肉桂・桂皮)、ナツメ(大棗)、マオウ (麻黄)、シャクヤク (芍薬)、カンゾウ (甘草)、といった植物が調合されています。クズやショウガの根が全身を温めると同時に、7種類の植物生薬が持つ相互作用によって、血行をよくし、発汗を促すとともに、分泌機能や代謝機能を高め、老廃物を取り除いてくれるといわれています。
江戸時代には「葛根湯医者」などという言葉や落語噺も生まれました。頭が痛いといっては葛根湯、腹が痛いといっても葛根湯、診察を待っている付添い人にも葛根湯、このようにどんな人にも葛根湯ばかりを処方する医者のことをいったようですが、(1)葛根湯のようにどんな病気でも治してしまう名医。(2)どんな疾患にも葛根湯を処方して誤魔化してしまう医者。(3)いつも葛根湯を服用して仕事をしている不養生な医者。などと多くの意味合いをもって使われてきました。それほど葛根湯は適応範囲が広くてよく効く薬だったためでしょう。病気の症状ではなく体質に合わせて飲むため、体が弱っている時ならば、いつもよく効くというわけです。1800年にわたる、いにしえの経験に基づいて用いられてきた伝統的な漢方薬です。
※『風邪には早めの葛根湯』
記事:内藤記念くすり博物館
野尻 佳与子 (2005年3月)
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