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昨年秋の休日にベトナム旅行に行ってきました。ベトナム戦争の傷あとから復興をとげ、発展しつつあります。私が訪れたのは、南から北へホーチミン、ホイアン、フエ、ハノイ、どの街でも人々の交通手段はオートバイが中心でした。車道には二人乗りや三人乗り、父と母そして中央に二人の子どもを囲んだ四人乗りバイクも走行するなど、活気が満ちていました。
ベトナム社会主義共和国は、通称「ベトナム」と呼ばれていますが、古くは「越南」「越国」「大越」などの漢字表記もなされていました。日本や韓国と同じように中国の影響を受けた漢文化と、フランス領時代の西洋文化がうまく融合しています。ベトナムの人々は親日的なだけでなく、海と隣接した南北に細長い国土の形や大きさが日本とも似ているため、私たち日本人にとっても親しみやすい国といえるかもしれません。
ベトナムには、日本と同じように魚介類を調理するだしの味覚や、繊細な香りを生かした食文化があります。ほのかに甘い香りのベトナムコーヒーや、個性的な匂いのコリアンダー(香菜)を使った料理、魚介類の発酵臭が食欲を増進させるナンプラー(魚醤油)など、気分や食材によって使いわけます。さらに、植物性香料を取り入れたアロマセラピーのマッサージや、エステの店もよく見かけました。様々な香料を産するベトナムだからこそ、人々の香りに対する感度も高いような気がしました。
日本とベトナムの交流、貿易の歴史は古く、漢方薬や香料にするベトナム産の原材料が、平安時代〜江戸時代の日本にも入ってきています。ベトナムとラオスとの国境周辺の山岳地帯から産出される、沈香(ジンコウ)、麝香(ジャコウ)、白檀(ビャクダン)、肉桂(ニッケイ)などは、他国よりも優れた品質のものが多かったといわれています。
「沈香」はジンチョウゲ科の常緑高木に由来する香料です。土中に埋まった木が菌類の作用により、長い時間をかけて複雑な化学変化を起こすことで沈香となります。この中でも特に最上級の沈香は、伽羅(キャラ)と呼ばれ、光沢のある濃い茶色とともに人類が知る最も高貴な香りの一つとして古くから珍重されてきました。
そんな沈香が、みやげ物を販売する物産店のショーケースで値札がついて並んでいました。私が沈香を興味深く眺めていたところ、買いそうなお客が物色していると思われたようです。店のおじさんは片言の日本語で説明しながら、少量のかけらを燃やして香りを嗅がせてくれました。懐かしさを感じる心地よい香り、ベトナムと日本を繋いできた友好の香りのように感じられました。
こうして私は、香りの産地ベトナムから帰国後、偶然にも正倉院宝庫に収蔵されている「蘭麝待(らんじゃたい)」が、その秋の奈良国立博物館で開催される正倉院展に出展されるということで見てきました。蘭麝待は、正倉院に伝わる8世紀のベトナム産で、150cmにもおよぶ大きな沈香の香木です。1200年という歳月を経ても変わっていないであろう沈香の香り、ベトナムとの歴史に想いを巡らせました。
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