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『千と千尋の神隠し』で有名な宮崎駿監督の映画は、自然描写が優れているといわれていますが、私は空の描き方が特にすばらしいと思いました。嵐の真っ只中の雲、夏の夕暮れ・・・自然を描き込んでいながら、同時に登場人物の心象風景まで表しているんですね。『千と千尋の神隠し』でも、主人公の女の子が迷い込んでしまった世界の空は、まるで岸田劉生の絵のように塗りこまれた、懐かしい空色をしていました。見たこともない場所を懐かしいと思うなんて、不思議な感覚ですが、これはたぶん、どこかで見た景色に似ているからなんでしょうね。『となりのトトロ』でも、小さな女の子が迷子になった夕暮れの空は、もし自分がこんな色の空の時に迷子になったら、きれいなんだけどとても不安な気持ちになったことでしょう。
秋になると、薬草園から緑が減っていき、少しずつ枯野色になっていきます。そうすると今まで草や木の葉に覆われて、空・草や木・地面の三つあった視界が、急に空と地面だけになったように見えてきます。天高く、という表現は秋の空を表現するのにもってこいの言葉ですが、私にはこの時期になるといつも、空が広くなったような感じがします。
空が広くなった薬草園には赤とんぼもやってきます。日本の古名は「秋津洲(あきつしま)」といい、『日本書紀』でも「あきつ(蜻蛉)」に由来する名前といわれています。本来はとんぼの形から名づけられたそうですが、私はどちらかというと、誰もいない秋の広い野原に、とんぼがいっぱい飛び交っている光景が目にうかんでしまいます。その野原に立ったとき、一体空の色はどんな色に見えるのでしょうか。タイムマシンに乗って、見に行きたいと思いませんか。 それにしても、とんぼから国の名前を考えてしまう古代人の言葉のセンスにはかないませんね。
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