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年の初めにお酒を飲んで、うきうきとした正月の気分をあらわす言葉に、「おとそきぶん」という言葉があるように、日本には元旦の朝、家族一同がそろって屠蘇酒を飲む風習があります。1年間の長寿健康を祈願する慣わしです。数種類の生薬を調合した屠蘇散(屠蘇延命散)を、清酒やみりんに一晩漬け込むお祝いのお酒です。
平安時代にさまざまな年中行事が誕生しました。その多くは、中国の古習に則ったもので、悪疫を防ぎ、病魔の退散を祈り、延命長寿、無病息災を祈る行事でした。屠蘇の風習も、中国で生まれた災難予防や疫病逃れの呪術儀式が、日本でも平安貴族の迷信深い思想によって広まり、やがて経済的なゆとりを持った江戸時代の庶民に育てられ、現代の年中行事として伝わっています。
屠蘇とは「邪気を屠(ほふ)り、心身を蘇(よみがえ)らせる」ところから名付けられたと言います。「悪鬼・疫病を治し、邪気・毒気を払うとされて、一人でこれを飲めば一家に疫なく、一家でこれを飲めば一里に疫なし、元旦にこれを飲めば一年間病気にかからない」と信じられてきました。
屠蘇散の処方は、書物によって違いますが、一般的にはオケラの根(白朮)・サンショウの実(蜀椒)・ボウフウの根(防風)・キキョウの根(桔梗)・ニッケイの樹皮(桂皮)・ミカンの皮(陳皮)など、身体を温めたり、胃腸の働きを助けたり、風邪の予防に効果的といわれる生薬を含んでいます。もともと、薬のトリカブトの根(烏頭)や下剤のダイオウ(大黄)なども加えていたようですが、現在の処方には激しい作用の生薬は含まれていません。
くすり博物館では、12月にご見学にいらっしゃったお客様に、迎春用の屠蘇散をお配りしています。先着300名様(1家族1袋限定)に差し上げます。来年のお正月は本格的なお屠蘇で祝ってみませんか。
記事:内藤記念くすり博物館
野尻 佳与子 (2004年11月)
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