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「酒はなくてはならないが、酒のあとの甘味もまたいい」――。酒飲みの中には、私のような甘辛両党遣いも結構多いように見受けます。懐石料理には、箸休めかデザート代わりの一品に、押さえた甘みのぜんざいの椀が添えられたりするように、甘と辛は決して相性は悪くありません。お酒は旬の肴があってこそですが、甘味の代表格である和菓子にも、その時々の季節の葉っぱが切り離せません。
桜の花はすでに盛りを過ぎてしまいましたが、春の和菓子といえば、桜もち。餡をうすいピンクの皮で覆い、やわらかい緑の葉で包む。ほのかな甘い香りが漂います。子供の頃は、葉っぱを残していましたが、いま人気の名店ものなぞは、塩漬けの葉といっしょに食するほうが味わい深い食べ方なのでしょう。
店頭に桜もちといっしょに並ぶのは、草もち、うぐいすもち、くずもち。餡を包みこんだ草もちか、餡を上にのせた草だんごをとるか、好みは分かれますが、私は、固くなった草もちをアルミ箔に包んで網で焼き、中の餡が熱くなったのが好き。よもぎの香りがさらに引き立ちます。
うぐいすもちは黄な粉の風味が持ち味。こんなとこにも登場する大豆の使いみちの多彩さには、あらためて驚かされます。そして、口の中に広がる、ほんのりした甘さのくずもちのなめらかさは、和菓子特有の上品な味わいがあります。
花見が過ぎると、端午の節句の柏もち。そして間もなく、笹の葉の出番となります。ちまき、麩もち、笹だんご。みな、青々としたすがすがしい葉に包まれて、いかにも初夏の風情を感じさせます。
笹のあとは、三角形のういろう生地の上に小豆を散りばめた「水無月」。疫病や災厄から免れるための神事である「夏越(なごし)の祓い」に用いられる6月の菓子の代表とのこと。十数年前、私が大阪にいた頃、梅雨どきになると、決まって駅前のお菓子やさんに顔を出しました。
もうひとつ、葉っぱで思い出すのは、椿の葉の「道明寺」。もち米を蒸した生地で餡をくるみ、それを椿の葉ではさんだものでしたが、近ごろ見かけるのは、椿ではなくて桜の葉。いつの頃から、なぜ椿が桜に化けたのか、よく知りません。でも、何と言っても素っ気ないのは、緑色のビニールの葉っぱに包まれた水羊羹。この味気なさだけは、いただけません。
たまには、和菓子と葉っぱで一服しながら、季節の移ろいを愛でるのも一興でしょう。でもこの時期、季節感を味わうのであれば、わさびの葉のおひたし、そら豆の塩ゆで、たらの芽のてんぷらを肴に、ぬるめのお酒をちびりちびりやる。やはりこっちのほうが、私の好みに合っていると言えそうです。
記事:エーザイ株式会社コーポレートコミュニケーション部
伊地知 則威 (2004年4月)
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