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すしは、炊き上がったご飯に酢と調味料を混ぜ合わせ、季節の魚介類・野菜などを一緒に握って、美味しくいただく代表的な日本料理です。すしを表す漢字には、鮨、鮓、寿し、寿司、壽司、寿斗などいくつもありますが、Sushiといえば海外でも通じるほどよく知られ、すしが大好物という外国人も大勢いらっしゃいます。
現在、すしの種類には、握りずし、散らしずし、押しずし、飯ずし、箱ずし、巻きずし、手巻きずしなどがありますが、酢飯を軽く握り固めたシャリの上に魚などの新鮮なネタを乗せていただく江戸前ずしが一般的です。1000年以上前のすしは、米や麦などの穀物を炊き上げて、魚介類と一緒に漬け込んで乳酸発酵させたものだったそうです。塩漬けにした魚の腹に飯をつめたり、魚と飯とを交互に重ねてつくる馴鮨・熟鮨(なれずし)、腐り鮓(くさりずし)など、郷土料理として近江の鮒鮨(ふなずし)、吉野の釣瓶鮨(つるべずし)などに、今も伝わっています。熟成期間の短いもので10日、長いものでは数ヶ月から数年かけて作るそうです。
こうした作り方のすしに対して、早ずしとも呼ばれる現在のような江戸前ずしが登場したのは江戸時代の中頃です。江戸前、すなわち東京湾でとれた魚介類や海苔を使うことから「江戸前寿司」とも呼ばれるようになったそうです。ファーストフードとして、江戸の町の屋台で売られるようになり庶民に人気の食べ物になりました。『守貞謾稿』によると「握り寿司が誕生すると、たちまち江戸っ子にもてはやされて市中にあふれ、江戸のみならず文政の末には関西にも江戸鮓を売る店ができた」と記されています。
すしに関する史話が長くなってしまいましたが、すし屋では葉蘭(ハラン)、生姜(ショウガ)、山葵(ワサビ)など欠かせない植物があります。葉蘭は葉に細かい切り込みを入れて作る飾りで、料理人の器用な技を表現した芸術的なものもあります。そこまでの手間がかけられないとか、葉蘭の生葉が入手困難という店では、代用品として熊笹を使用したり、ビニール製のバランを使っています。おそらく、パックの折り詰めの中に入っているものを見かけたことがあるでしょう。ビニールの葉っぱは、本物のハランに対してバランと呼ぶそうです。葉蘭は、温暖な場所の日陰に自生する常緑の多年草で、薬草としては根茎を摩り下ろして利尿・強心・去痰・強壮などの薬効があります。しかし、すし屋の用い方は視覚的な効果、緑の添え物があることで美味しさを引き立ててくれます。笹の葉ずしや朴葉ずしなどのように1貫ずつを包んで巻かれたすしも、瑞々しい植物の香りが食欲をそそります。こちらには鮮度の維持、防腐の役目もあるようです。
口休め、口直しとしてすし屋さんで欠かすことができないガリと呼ばれる生姜、シャリ(酢飯)とネタ(魚介類などの具材)の間に入れて味を引き立てるサビと呼ばれる山葵には、防腐や殺菌、食欲増進などの効果があります。無くては味気ないもの、すしを美味しくいただくために欠かすことができない薬草です。
記事:内藤記念くすり博物館
野尻 佳与子 (2010年7月) |
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