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平安時代に成立した辞書に鬼とは、隠(おん)のなまったもので”隠れて姿を表さないもの”と書かれています。悪神、伝説上の山男、亡霊、死者の霊魂、人々にとって恐ろしいものでした。目に見えない何かが潜んで命を奪っていく災害や流行は特に恐れられ、鬼の仕業と考えられてきました。
陰陽道で魔物が出入りする「鬼門」が丑寅(東北の方角)であることから、鬼は牛の角と虎の皮を組み合わせて考えられた姿だといわれます。鬼の姿には仏教や日本古来の信仰、さらには日本異民族の姿など、さまざまな要素が影響しているようです。また、家屋に使う鬼瓦は、病気や災害を防ぐ魔除けとして重視されてきました。
昔話にも「鬼婆」や「鬼退治」が登場しますし、遊びの「鬼ごっこ」、「かくれんぼ」は一般的に知られています。強い、恐ろしいというイメージがあるからでしょうか。昔から身近な植物にも鬼の形や色などの特徴をとらえて、名づけられたものが見られます。同じ種類の植物でも、特に大きいとか荒々しく強そうな時、鬼が頭についています。
例えば「オニユリ」はユリの中でも花が大きく、いかにも強そうな赤鬼を連想させることから名づけられました。「オニノヤガラ」はその形が鬼の矢のようであることからです。「鬼の醜草(しこくさ)」は紫苑の異称で、今昔物語の「親を亡くした2人の息子の兄は悲しみを忘れる「忘れ草(萱草)」を、弟は「思い草(紫苑)」を墓に植えて毎日墓参した。兄は次第に墓参りをしなくなるが、弟は墓参りを欠かさなかった。墓を守る鬼は弟の孝心に感じいった」という話に由来するようです。植物の名前の由来はいろいろあるので、調べてみるとおもしろいですね。
記事:内藤記念くすり博物館
伊藤 恭子 (2008年2月) |
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