私たちの名前は生まれてすぐつけられますが、植物はじっくりと観察され、その特長が判明してから名前がつけられます。最近は園芸品種の開発ラッシュで、間違えないようにということでしょうか、品種名がそのまま商品名として通用しているようです。
学名はもともと、ラテン語でその生き物の特長を表し、共通の名前をつけたものです。植物の呼び方は時代や地方によってさまざまですが、現在の日本の植物名(和名)は、牧野富太郎先生をはじめ、多くの研究者の方が共通の名前として採用したものとなっています。花穂の積み重なった様子を「ジュウニヒトエ」と名づけたり、夕方開花して美しいオシロイバナを「ユウゲショウ(夕化粧)」と呼ぶのは、センスいいですよね。
一番多い命名法は、外見の特長から名づけるものでしょうか。おじいさんの白髪のような羽毛状の柱頭を持つ「オキナグサ(翁草)」、虎の尾のようなもこもこした花穂をつける「イブキトラノオ」、おしべが長いので「ネコノヒゲ」など、想像して比べてみると楽しいですね。
また、花が太陽を追う「ヒマワリ(向日葵)」、実がぱっくり割れる「アケビ(開け実)」と習性を観察してつけた名前もあります。
薬草については、甘くて飲めるから「アマチャ(甘茶)」・目の炎症に用いるから「メギ(目木)」というわかりやすいものもあれば、”すぐに効くので”ゲンノショウコ(現の証拠)とか、いろいろ効くから「ジュウヤク(十薬または重薬=ドクダミ)」のように落語のオチのような命名もあります。
生薬の名前にもいろいろあります。「トウキ(当帰)」は「当に帰る」という意味で、病弱な女性がこれを服用すると元気になった、産後の肥立ちが悪い女性が実家から夫の元へ帰ってくることができた、あるいは自分から離れていった夫が戻ってきたなどのいわれがあります。
「名も無き花」と呼ぶのは花に対して失礼だとおっしゃった方がありました。親が子をいとしんで名を呼ぶように、植物の名前もできるだけ覚えて、名前で呼びたいものです。
記事:内藤記念くすり博物館
稲垣 裕美 (2004年7月)
<形状>
アツモリソウ
・クマガイソウ
『平家物語』に登場する二人の武士の母衣(ほろ)にちなんで。
イカリソウ
花の形から。
ウツギ[空木]
幹が中空なので。
ウラシマソウ[浦島草]
浦島太郎の釣り竿に見立てて。
オオイヌノフグリ
実が犬のふぐり(睾丸)に似るので。
ジュズダマ[数珠玉]
実が丸く、数珠の玉のようなので。昔、こどもが糸でつなげて遊んだりしました。
ソシンロウバイ
幹の中心(素)に芯があるので。
タヌキマメ
実を振ると中の種子が音を立てるので、腹をたたくタヌキに見立てて。
チョウジ[丁子・丁字]
つぼみの形が「丁」の字状になっているので。
トリカブト[鳥兜]
花の形が舞楽の伶人のかぶる鳳凰の形の冠に似ていることから。
ナンバンギセル[南蛮煙管]
オランダ渡りの煙管の意味。
ヌスビトハギ[盗人萩]
泥棒が忍び足で歩く時の足跡に似ているから。
ネコノヒゲ
細長いおしべをネコのヒゲに見立てて。
ネズミモチ[女貞]
実がネズミの糞に似ているから。
ハナイカダ[花筏]
葉の主脈の上に花が咲く様子から。
ペンペングサ
莢の形が三味線のバチに似ているからとも、葉をちぎれないようにひっぱって振ると音がすることからとも言われています。
ホトケノザ[仏の座]
葉のつき方が仏像の座る蓮華座に似ていることから。
レイジンソウ[伶人草]
舞楽の伶人に見立てて。
ジャノヒゲ
細長い葉を蛇のヒゲに見立てて。
<味・におい>
カタバミ(サクショウソウ[酢漿草])
・
スイバ
両方ともすっぱいので。
キュウリグサ
キュウリのような匂いなので。
クサギ[臭木]
匂いがくさいので。
<薬効>
オオチドメ
・
ノチドメ
止血
センブリ
「たとえ千回振り出してもまだ苦い」ほどの苦さという意味から。
クサノオウ
くさ(瘡)に効くから。
ゲンノショウコ
[本文をご覧ください]
トウキ
[本文をご覧ください]
バジル(メボウキ)
和名は、種子を水に入れるとゼリー状の膜ができるので、それを使って目のゴミをとったからといわれています。
ビナンカズラ
整髪料に用いるときれいになることから。
メギ
眼を洗ったことから。
メグスリノキ
眼を洗ったことから。
メハジキ(ヤクモソウ[益母草])
婦人病に用いるので、母親に益があることから。
ヒキオコシ
病人を引き起こす意味から。
<植物の特長>
カキドオシ
垣根を通りぬけるくらい繁るので。
カナムグラ[金葎]
固い棘とからみついて生い茂るため。
サボンソウ
根にサポニンを含んでいて、石鹸のように泡立つことから。
ダイダイ
新しい果実ができても前年、あるいは前々年の果実が落ちず、秋に橙色になった実が冬に青くなり、また橙色に戻ることから代代の名があります。縁起が良いとされ、正月飾りに用います。
ハンゲショウ
半夏生の頃(夏至の後の7月上旬)に花が咲くからとも、葉が半分白いので「半化粧」ともいわれます。カタシログサという別名も同じところから来ています。
ヒガンバナ[彼岸花]
彼岸の頃に咲くので。
ヒョウタンボク(キンギンボク[金銀木])
花の色が白から黄色に変化するので。
マンサク
春早くに咲くので「先ず咲く」から。
ヤドリギ
他の樹木に寄生する(=宿る)ので。
ヤブガラシ
ヤブを枯らしてしまうほどよく繁るので。
ユズリハ
新しい葉が出ると古い葉が落ちることから。
<変わった命名>
ヘチマ
もともとは「唐瓜(とうり)」といい、「と」の字がいろは順で「へ」と「ち」の「ま(間)」にあるからという言い伝えがある。
<用途>
アブラチャン[油瀝青]
果実と樹皮から油を採り、灯火としたほか、生木でもよく燃えることからこの名があるといわれています。チャン(瀝青)はタールを蒸留して得られるものです。
アベマキ(コルククヌギ)
コルクの代用になるので、コルククヌギの名があります。
シロツメクサ[白詰草]
江戸時代、オランダから輸送されてきた荷物の破損防止用に、詰め物として入られてきたので。
トクサ[木賊]
茎に珪酸を含んで固いので、ものを砥ぐのに用いたので。
ホタルブクロ
釣鐘状の花にこどもが蛍を入れて遊んだからとも、下を向いて咲く様子が、”火垂る(提灯の古語?)”に似るからとも言われています。
<外国産・外国の言葉>
イチゴ(オランダイチゴ)
カラミザクラ[唐実桜]
ジャガイモ
ジャガタラ芋の意味。ジャガタラはジャカルタの古い名前で、江戸時代にオランダ船がジャワ島経由で日本へ来たことから、運んできた品物を「ジャガタラ〜」と呼びました。
※ジャガタラ水仙(アマリリス)、ジャガタラ縞(更紗)など。
センナ(アラビア語で耳sena)
チョウセンアサガオ[朝鮮朝顔]
<地名>
イブキジャコウソウ[伊吹麝香草]
テンダイウヤク[天台烏薬]
中国の天台山で生産された烏薬が良品とされたことに由来します。
ミシマサイコ
静岡県三島市の辺りで特に優れたサイコが採れたので。
<その他>
イチイ[一位]
昔、貴族の持つ笏(しゃく)をこの木で作ったことから、位階の正一位・従一位にちなんで。
セッコク(スクナヒコノクスネ[少彦薬根])
少彦名命(スクナヒコナノミコト)にちなんで。
タラヨウ[多羅葉]
昔、ヤシ科のタラヨウの葉の裏に鉄筆で写経をしました。日本のタラヨウはモチノキ科ですが、同じような特長があるので、この名前があります。