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衣料品の素材には、綿や麻などの植物繊維、毛や絹などの動物繊維、石油製品からつくられているアクリルやナイロンなどの化学繊維と、さまざまな織物があります。それぞれに利点と欠点がありますが、機能や風合い、デザインなどの特質を活かして衣料品が作られています。
古くから人類と関わりが深いのは植物繊維です。なかでも麻の衣服の歴史が最も古く、約1万年前、世界文明発祥のユーフラテス川流域で、繊維を取るために麻の栽培が行われました。古代エジプトのミイラは麻の布で包まれていますし、ギリシャやローマでは、上質な麻が重宝されました。中世ヨーロッパの家庭では、テーブルクロスやベッドリネン、家風や品格、伝統を象徴する麻製品が、母から娘へ、娘から孫へと受け継がれて愛用されていました。
麻は、時代や産地によって多くの種類と名称があります。日本では、“ラミー(Ramie)”と呼ばれるイラクサ科の「苧麻(カラムシ・チョマ)」と、“ヘンプ(Hemp)”と呼ばれるクワ科の「大麻」が、主として栽培されていました。一方、西洋では、“リンネル・リネン(Line)”と呼ばれるアマ科の「亜麻」の栽培が盛んでした。
亜麻の栽培には、比較的涼しい地方が適していて、4月に種をまくと6月頃に白または薄青紫の可憐な花が咲きます。そして7〜8月に1メートル程に成長した茎から、繊維が作られます。
麻素材の良さは、何と言っても通気性です。水分の吸湿や発散性に優れているため、清涼感があり夏の衣料品によく使われています。また耐久性があるため、繰り返しの洗濯にも適しています。
日常用の衣料品として最も馴染み深いのは、綿(ワタ)からつくられる綿(メン)素材です。アオイ科の植物、綿(ワタ)の実がはじけて、種子を包む白色または淡黒褐色のふわふわした部分からつくられる繊維です。インダス川流域では綿の栽培が約5千年前から行われるようになったとされていますが、日本での歴史は浅く、15世紀の室町時代に伝わり、庶民の衣料として広がったのは17世紀の江戸時代以降のことでした。
綿素材は、肌触りがよくて涼しいことと、吸水性に富み、染色性や発色性に優れているため、肌着や夏物衣料など肌に直接触れるものに多く使われています。日本では、衣料用繊維の約40%が綿製品で占めているそうです。
このような麻と綿に代表される植物繊維、肌に優しくて、使い込むほどに愛着がわくものです。もうすぐ衣替えの季節、今年の夏は涼しくて快適な植物から作られている衣料品を見直してみませんか。
記事:内藤記念くすり博物館
野尻 佳与子 (2007年4月)
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