エーザイ株式会社

挑戦者 #3 製品戦略推進部 飯濱 卓哉 エーザイの「まちづくり」!? 薬だけに頼らない、認知症への答えがある。

「新しい答え」への挑戦 #03

薬だけに頼らない、
認知症への答えがある。

製品戦略推進部
認知症領域室ネットワークグループ
飯濱 卓哉

2011年に入社。最初はMRとして活躍していたが、入社時に志した「まちづくり」への想いに駆られ、2016年に社内公募制度を活用し、認知症ソリューション本部へ異動。現在は自治体・企業・アカデミアと連携し、認知症エコシステムの構築を進めている。

治療薬だけでなく、社会全体で認知症を支える環境づくり「認知症エコシステム」に取り組む、飯濱卓哉。自治体をはじめ、認知症エコシステムに関わる様々なプレイヤーを「仲間」として巻き込む渦の中心には、飯濱の変わらぬ想いがありました。

01

「まちづくり」という
製薬会社らしからぬ
「新しい答え」。

製薬会社であるエーザイが「まちづくり」に深く関わっていると伺いました。

私も大学生の頃、なぜ製薬会社が「まちづくり」を掲げているのか不思議だったんです。「まちづくり」自体に強い興味があったので、文系ながらも入社を決めたのですが、エーザイが「まちづくり」に取り組む理由に納得したのは初任地での経験からでした。

当時の私はMR(医薬情報担当者)で、医療機関や自治体の方々と対話する中で、相互の情報連携がうまくとれず、認知症の早期発見が遅れてしまうケースが多いと伺ったんです。お互いに「なるべく早く適切な対応をしたい」という願いは同じなのに、連携できていない状況をもどかしく感じました。医療機関と自治体がともに認知症を早期発見するための事業をつくったり、住民の皆さんが認知症に関われるイベントに出たりすると、もっと当事者様やご家族、さらには生活者の皆様が暮らしやすい環境になるんじゃないか、と考えていました。

新しい治療薬の開発にとどまらず、医療機関と自治体と住民が一緒になって、当事者様やご家族、生活者の皆様が暮らしやすい地域をつくる。そこまでやって初めて、「生ききる」ことを支えることができる。そのような「まちづくり」に深く関わり、認知症を取り巻く「社会環境」ごと変えることで、認知症の課題に立ち向かう。それが、治療薬の開発とは全く異なるアプローチの「新しい答え」なんです。

だからこそ、「認知症の新しい解決策づくり」を担う
新設の部署に手をあげて異動されたのですね。

入社5年目に社内公募制度を使い、認知症ソリューション本部に異動しました。当時新設された部署で、社内でも薬剤以外のソリューションを扱う新しい組織。チャレンジングな選択ではありましたが、不安はありませんでした。ここに行けば、ずっとやりたかった「まちづくり」が実現できるという想いの方が強かったんです。

新しい部署で目指したのは、「モノ売り」ではなく「コト売り」です。製品を売る前に、課題を解決することは何かを考えました。そこで、初任地でのもどかしさを解消するために、医師会・自治体・エーザイの三者による「認知症連携協定」を結び、協力しやすい環境を整えたり、認知症を早期発見する仕組みを各地の自治体に提案したりしました。認知症を取り巻く環境を少しでも変革させたい想いで、毎日仕事をしていたと思います。

02

認知症の「新しい答え」を、
垣根を越えて生み出したい。

現在、認知症に様々なプレイヤーが関わりやすくするために、
飯濱さんは「認知症エコシステム」を推進していると伺いました。

認知症を取り巻く環境において「治療」はコアにあると思いますが、「治療」以外の選択肢を増やしていきたいんです。「認知症エコシステム」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが、簡単に言うと、日常生活の段階からご自身の認知機能を意識してもらう、あるいは認知症になっても安心して暮らすために、様々な公共団体や企業などのパートナーと一緒に新しい解決策を生み出す環境づくりのことです。エーザイ1社だけでは、認知症を取り巻く環境を大きく変えることはできません。自治体や、保険、金融、通信業界などの民間企業、そして大学などの研究機関、何より地域の皆さんと一緒に連携することが欠かせないのです。

皆さんと連携することで初めて、日常生活における予防や早期診断、治療後の人生も含めたケアなど、幅広い視野で認知症の課題に応えることが可能になると考えています。

「認知症エコシステム」をゼロから立ち上げていくのに
どのようなハードルがありましたか?

自治体や企業の方々に話を持ちかけても、ただでさえ「認知症エコシステム」は全く新しい概念。目指す理念を理解いただいても、「自分たちは具体的にどう参加すればいいか、イメージしづらい」とのコメントをいただくこともありました。

それでも会話を続けることが大切でした。例えば、ある自治体の担当者と複数回の面談を経ても、なかなかご理解いただけず、連携には至りませんでした。それでもあきらめずに提案を続けていると、しばらく経ってから「一緒にできる事業があると思う」と先方からご連絡をいただけたのです。この時は本当に嬉しかった。エーザイと自治体が組むことで地域がどう変わり、その先にある当事者様やご家族、生活者の皆様の日常がどう変わっていくのかを伝え続けたことが共同事業につながったんだと思います。

実際に「認知症エコシステム」のソリューションとして
どのような「新しい答え」が生まれているのでしょうか?

エーザイは認知症のパイオニアとして長年研究してきた膨大なデータと、多くの当事者様やご家族に寄り添ってきた知見があります。エビデンスに基づき、認知症の当事者様やご家族が本当に望むことを提案できる強みがあります。この知見があるからこそ、情報のやり取りが少なかった日本全国の自治体をつなぎ、認知症の情報交換ができるオンラインプラットフォーム「Do Communication」を立ち上げられました。今では1,000を超える自治体が登録しています。さらに、都市圏の自治体とともに大規模の「認知症検診」も実現し、普段認知症を意識していなかった住民の皆さんにも早期診断につながる機会を提供することができました。

自治体と連携して新しい事業が生まれたときはやりがいを感じます。ただもっとやりがいを感じるのは、地域の方から直接感謝される瞬間。「こんな機会をつくってくれてありがとう」「検診が出かけるきっかけになった」と声をいただくと、さらに頑張ろうという気持ちになります。

今後も「認知症エコシステム」では、あらゆる業界との連携が考えられますが、新サービスなどの提供自体を目的とするのではなく、地域や社会が変わるべき方向性をエーザイが率先して示すことで、本当に必要とされる解決策の提供を目指していきます。この想いに共感してくださるパートナーの方々と一緒に取り組んでいきたいですね。

03

認知症が
「あたりまえ」と思える社会へ。

飯濱さんにとって、「新しい答え」を出すために
欠かせないものは何でしょうか。

固定観念を取り払うことが大切だと思います。まだまだ認知症には偏見があります。当事者様を家に隠すことも少なくないと聞きます。当事者様の声が、まだまだ発信できていないと思うことも多々あります。さらには、意外と認知症の当事者様や治療に対する一方的な考えや思い込みが先行してしまうこともあるんです。「認知症を薬以外で解決する」という発想もそうですし、脳の健康度をスマホでチェックできるツール、大規模な認知症検診イベントも「本当に必要なものはなにか」を問うことで生まれました。これからも固定観念に囚われず、自由な発想を大切することで、みんなで「新しい答え」を生み出していきたいです。

認知症に関わる様々な人たちが、「新しい答え」を
出しやすくなることで、社会はどのように変わっていくのでしょう。

「認知症があたりまえと思える社会」になると思っています。誰もがなり得る病気だからこそ、認知症との共生はみんなに関係する課題だと感じています。認知症になることが「あたりまえ」だと考える人が増えると、認知症にならないための予防行動も「あたりまえ」になる。早期診断を受けたり、早期治療を考えることも「あたりまえ」になる。その時にスマートフォンで簡単に認知機能の検査ができたり、自治体の検診から専門医にスムーズにかかることができる。そんな環境が整っていると安心ですよね。私たちの仕事は、認知症になってもならなくても、その人らしく生きていける社会につながっていると思います。

昨今では「認知症エコシステム」のコンセプトに共感いただき、企業や自治体側からお声がけいただくことも増えてきました。当事者様やご家族、生活者の皆様を取り巻く環境変化はもちろん、様々な業界の技術の進歩も捉えながら「認知症エコシステム」は時代に合わせて進化させていきたいと考えています。

  • 所属・インタビュー内容は2025年3月時点のものです。