「新しい答え」への挑戦 #02
hhcエリアコーディネーター
認知症領域専門MR
佃 美和
2018年にMR(医薬情報担当者)として入社。現在は認知症専門のMRとして活躍。
新しいアルツハイマー病治療薬の立ち上げから発売後の普及に携わる。
アルツハイマー病の新薬が開発された一方、診断を受けた時期によって治療の機会を失ってしまう当事者の方がいます。ひとりでも多く、治療を望む当事者に新薬を届けるために。12の施設・病院を担当し日々奔走する認知症専門MRの佃美和には、薬だけじゃない「届けたい想い」がありました。
もくじ
01
アルツハイマー病の新しい治療薬を使用するには、様々な条件があると伺っています。
私の仕事はアルツハイマー病の新しい治療薬について、医療関係者の皆さんに適正使用推進に向けた情報のお届けに加え、医療機関での環境整備に取り組んでいます。発売前より多くの医療関係者の方々から「期待している」「待ち望んでいる」との熱い言葉をいただきました。
その一方で、本剤による治療を希望しているのに、治療を受けることができない当事者様もまだまだ多いのが事実です。大きく2つの理由があります。
ひとつは、治療する環境の問題です。本剤を投与する施設には厳しい基準があり、施設には脳の検査ができる設備を備える必要があります。基準を満たす病院の多くが都市圏にあり、地域によっては要件を満たす施設が少なく、時間をかけて通院される場合もあります。
もうひとつは、治療する時期の問題です。アルツハイマー病の症状が進行した方には、投与することができません。「今はまだいいかな」と受診が遅れてしまうと、本来受けられるはずの治療も、受けられなくなってしまう可能性もあるんです。
だからこそ、私はひとりでも多くの当事者様が治療を受けられるように、ひとつでも多くの医療施設に本剤を投与できる体制をいち早く整え「必要とされる方には治療薬を絶対届けたい」という強い意志を持って仕事をしています。
佃さんがアルツハイマー病の新薬を「必要とされる方々に絶対届けたい」と
そう思われるようになったきっかけはありますか?
エーザイには、全社員が就業時間の1%を患者様やご家族の方と過ごし、喜怒哀楽に寄り添い、課題を感じ取ることを目的にした研修があります。私もこの研修で認知症の当事者様やご家族の方の生の声に触れ、いまだ残る認知症への偏見や、認知症と診断されたことで様々なことをあきらめざるをえない当事者様の方のやるせなさを痛感しました。この経験が新薬を届けたいという想いをより強くしています。
02
認知症の治療格差をなくすために、佃さんはどのような活動をされているのでしょうか?
どんな些細なことでも認知症の兆しに気づいたら、早期受診をするきっかけづくりを意識的に行っています。例えば、地域の皆さんに認知症を「自分ごと」として考えていただくために、病院の先生が講演する疾患啓発市民講座の開催をサポートしたり、担当する病院間で情報を共有するなどの橋渡しをすることもあります。
ある病院が本剤について医療現場での運用方法を知りたいと申し出があった時は、既に扱っている病院につなげて見学の場を設ける活動も実施しています。MRは担当する病院が決まっている職種ですが、私は幅広くエリアを担当しているからこそ、様々な情報をお伝えし、領域を越えて協力しています。
また、認知症の専門ではない医療関係者の方が、認知症の兆しに気づくケースも多いんです。たとえば、整形外科の先生が、手術日を忘れてしまった患者様の異変に気づき、認知症の診断につながったこともありました。認知症以外の領域の医師、薬剤師、看護師、放射線技師、病院の事務を担当されている方など、あらゆる医療関係者に認知症や本剤に関する情報を提供することで、少しでも早く認知症に気づき、治療できる方を増やしていくことが、自分の使命だと思っています。
新薬ならではの課題として、治療する医療関係者も
治療を受ける当事者も不安を抱えていると伺いました。
本剤は、世界初のアルツハイマー病の原因に直接アプローチする薬剤です。その一方で、世界初の薬は、医療関係者と当事者様の双方にとって「挑戦するのが怖い」ものでもあると思うんです。そういった不安を、臨床試験や安全性のデータをもとに、最新の情報をお伝えして解消するのも私たちの仕事です。地道な活動ですが、確実に理解は進んでいる印象です。当事者様と最前線で向き合われている看護師さんから「看護師人生でこのお薬と携われてよかった」と言葉をいただいた時は、自分の仕事が少しでも役に立っていると強く心を打たれました。
03
希望する「すべての当事者様」に新薬を届けるため、
佃さんが挑戦する次の「新しい答え」を教えてください。
この新しいアルツハイマー病治療薬は、点滴を継続的に投与する必要があり、現状では限られた病院での受診になります。将来的には、当事者様の住み慣れたまちで投与できるように、かかりつけ医の先生との連携を進めていきたいです。今は認知症の当事者様がいない病院でも、これからは認知症の受診が増えるかもしれない。「誰もが認知症になりうる」社会だからこそ、治療が受けられる病院を増やすことが大切です。
本剤を求める方が住んでいる地域によって諦めることがないように。当事者様やご家族の皆さんが悲しまないように。私たちが皆さんに届けるのは、薬だけじゃなく、正しい情報なんだと思います。
次なる答えが生まれた先に、どんな社会が待っていると思いますか?
最終的には認知症を根本から治療できる薬をお届けすることが大きな夢ですが、まずは認知症や薬の正しい情報を皆様に届けることで、認知症と診断されたからといってあきらめない、少しでも前向きに生きていける社会をつくりたいと思います。
人生の早い段階で「あなたは認知症です」とお伝えしてしまうと、今までは治療法が限られていたので、受け入れられず、友達にも言えず、ただ当事者様やご家族の皆様を悲しませるだけになっていました。本剤が発売されてからは、診断された先に「治療する」という新たな選択肢が生まれました。「これからの長い人生を考えると、治療の選択肢があるのが本当にうれしい」という声をご家族からいただいた時は、自分の仕事はただ薬を届けるだけじゃないんだと、深い感動を覚えました。
だからこそ、たとえ認知症になったとしても、明るい未来を届けたい。認知症と診断された後も、お仕事や趣味などを前向きに過ごしていただきたい。この「新しい答え」に向かって、組織や領域を越えて、エーザイ社員全員と取り組んでいきたいと思います。