リンパ系フィラリア症の制圧に向けた取り組みの成果と継続支援を発表顧みられない熱帯病制圧をめざすロンドン宣言から5周年

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、2017年4月18日にスイスのジュネーブで開催された、顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)制圧をめざす国際官民パートナーシップ「ロンドン宣言」の5周年イベントにおいて、リンパ系フィラリア症(LF)の制圧に向けた当社の取り組みの成果と今後の支援について発表しました。

2012年1月に発表された「ロンドン宣言」は、グローバルヘルス分野で世界最大の官民パートナーシップであり、グローバル製薬企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、世界保健機関(WHO)、米国政府、英国政府、蔓延国政府などが、2020年までにNTD10疾患の制圧をめざして共闘していくことを表明したものです。ロンドン宣言以降、製薬企業からの治療薬の無償提供は約1.7倍に拡大し、年間約10億人のNTDs治療や予防に貢献しています。

当社は「ロンドン宣言」のもと、LF治療薬の一つであり、世界的な供給不足にあった高品質の「ジエチルカルバマジン(DEC)錠」を自社のインド・バイザッグ工場で製造し、2020年まで22億錠をWHOに「プライス・ゼロ(無償)」で提供する契約を締結しています。これまでにLF蔓延国27カ国に対して10億錠を供給してきました。またDEC錠の提供に加えて、社員が、各国のWHOや政府関係者などの協力のもと、薬剤集団投与や住民への疾患啓発、衛生環境整備の支援活動を行うなど、それぞれの地域に根差した制圧支援を展開しています。さらに、他の製薬企業、WHOやビル&メリンダ・ゲイツ財団とともに、常温輸送ができる低コストの新しいLF診断キットを開発し、その無償提供にも取り組んでいます。

LFについては、「ロンドン宣言」以降、73の蔓延国のうち、8カ国で制圧に成功し、10カ国で制圧認定の審査段階となっています。当社は、2020年までにより多くの国での制圧が達成されるよう、制圧加速に向けた包括的な支援活動を推進するとともに、現在の制圧進捗に鑑み、DEC錠が必要とされるすべてのLF蔓延国において制圧が達成されるまで、2020年以降も高品質のDEC錠を継続的かつ安定的に提供してまいります。

当社は、開発途上国・新興国の人々の健康福祉の向上に貢献し、これらの国々の人々が健康を回復し、就労による経済の発展や中間所得層の拡大に寄与することを、将来の市場形成に向けた長期的投資と位置づけています。DEC錠の無償提供のほか、政府、国際機関、アカデミアや非営利民間団体などとのパートナーシップを活用し、NTDsや結核、マラリアに対する新薬開発にも積極的に取り組んでいます。これらの取り組みにより、疾患に苦しんでいる世界の患者様とそのご家族のベネフィット向上に、より一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. 顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)について

WHOによると、NTDsにより世界149の国と地域の10億人を超える人々が健康を害しており、その大部分は貧困層であると推定されています1。NTDsは貧困により蔓延していく一方、多くの国と地域で貧困の原因ともなっています。NTDsでは、盲目や体の変形などの身体症状が現れることがあり、経済活動や社会生活を送る上での障害となっています。また、重症化し、死に至る場合もあるため、社会や医療に大きな負担となっています。

WHOにより、デング熱とチクングニア熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、風土病性トレポネーマ症、ハンセン病、シャーガス病、アフリカ・トリパノソーマ症(睡眠病)、リーシュマニア症、条虫症・嚢虫症、メジナ虫症(ギニア虫症)、エキノコックス症(包虫症)、食物媒介吸虫症、リンパ系フィラリア症、オンコセルカ症(河川盲目症)、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ(菌腫)の18種疾患がNTDsとして指定されています。

2. 顧みられない熱帯病に対するロンドン宣言(London Declaration on Neglected Tropical Diseases)について

2012年1月30日、世界製薬企業13社*のCEO、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、WHO、米国国際開発庁(USAID)、英国国際開発省(DFID)、世界銀行、NTDsの蔓延国政府がロンドンに一同に会し、今後NTDs10疾患**を制圧すべく共闘することを表明しました。これはグローバルヘルス分野における世界最大の国際官民パートナーシップであり、これまでの組織単位、疾患ごとのアプローチとは異なり、この新しい連携により、制圧に向けて網羅的に、医薬品供給、物流、開発、インフラなどにおける課題に取り組み、より効果的にNTDs制圧を成し遂げることをめざしています。

  • *
    アッヴィ、アストラゼネカ、バイエル、ブリストル・マイヤーズ スクイブ、エーザイ、グラクソスミスクライン、ギリアド、ジョンソンアンドジョンソン、メルク(Merck KGaA:ドイツ)、MSD、ノバルティス、ファイザー、サノフィ
  • **
    ギニア虫症、リンパ系フィラリア症、失明に至るトラコーマ、睡眠病(アフリカ・トリパノソーマ症)、ハンセン病、土壌伝播寄生虫症、住血吸虫症、オンコセルカ症(河川盲目症)、シャーガス病、リーシュマニア症

3. リンパ系フィラリア症について

リンパ系フィラリア症は、蚊を媒介してヒトに感染する寄生虫症で、感染するとリンパ系機能障害を引き起こします。感染は小児の段階で起こることが一般的ですが、症状は数年かけて徐々に現れてくることが多く、成人期に最も重篤な症状を発症します。主な症状のひとつである象皮病は足などが象の足のように大きく腫れる身体障害で、患者様の日常動作に影響を与えるだけでなく、障害に対する偏見などから、歴史的にも多くの患者様が社会から迫害され、精神的にも患者様やご家族の方々を苦しめる原因となっています。

日本でも平安時代からリンパ系フィラリア症が存在していたことが確認されていますが、1960年代に始まった政府主導による産官民協同制圧活動の結果、1970年代後半に世界に先駆け、制圧が成功しました。

4. 当社のNTDsに対する新薬開発への取り組みについて

当社は、現在、NTDsのうちシャーガス病、フィラリア症、リーシュマニア症、マイセトーマ(菌腫)、ならびにマラリアや結核の新薬創出をめざして、様々なプロジェクトを進めています。これらの研究開発においては、政府や国際機関、非営利民間団体などとのパートナーシップを活用しています。

例えば、自社創製の抗真菌剤ホスラブコナゾールについて、サシガメによって媒介されラテンアメリカ21カ国で流行しているシャーガス病に対する新薬開発をめざしており、Drugs for Neglected Diseases initiative(DNDi)とのパートナーシップにより、臨床第Ⅱ相試験が進行中です。さらに、皮膚から感染し巨大な腫瘍を生じるマイセトーマ(菌腫)に対しても、DNDiとの共同で臨床第Ⅱ相試験を準備中です。

また、結核に対する革新的な創薬に向けて、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、当社を含むグローバル製薬企業と研究機関により共同設立された「Tuberculosis Drug Accelerator(TBDA)」を通じて、結核に対する新規治療薬の探索研究を行っています。

さらに、当社はフィラリア成虫駆除薬の創薬研究を行う「Macrofilaricide Drug Accelerator(MacDA)」やリーシュマニア症とシャーガス病の効率的な創薬に向けた「顧みられない熱帯病に対する創薬ブースター」といった、探索研究のコンソーシアムにも参画し、アンメットニーズの高いこれらの疾患における新薬開発の促進をめざしています。

加えて、当社は、グローバルヘルス分野における日本初の官民パートナーシップである公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund、以下GHIT Fund)の設立に参画しています。 GHIT Fundは、日本の製薬企業、日本国政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の協力により設立され、新興国・開発途上国の感染症に対する日本発の新薬創出を推進しています。