英国NICEが抗がん剤「ハラヴェン®」を進行性乳がん治療薬として推奨

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、自社創製の抗がん剤「ハラヴェン®」(一般名:エリブリンメシル酸塩、以下 エリブリン)が、英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence:NICE)により公表された最終評価報告(Final Appraisal Determination:FAD)1において、アントラサイクリン系あるいはタキサン系抗がん剤、ならびにカペシタビンを含む少なくとも2種のがん化学療法による前治療歴のある局所進行性・転移性乳がんに係る治療薬として推奨されたことをお知らせします。本剤は、乳がん治療薬としては2007年以降NICEが初めて推奨した薬剤となります2

本推奨により、「ハラヴェン」の本適応における使用に関して、英国国民保健サービス(National Health Service England:NHS England)から償還を受けることになります。

NICEの評価プロセスにおいて、エリブリンは、全生存期間(overall survival:OS)を3カ月以上延長させることが示されていると評価されました。また、対象となる乳がんのステージにおいて予測される余命から考慮して、エリブリンのOS延長効果のベネフィットは重要で価値あるものと判断されました。その結果、エリブリンが終末期治療に関する評価基準を客観的かつ強固に満たしており、余命延長が期待できる薬剤である、と結論付けられました。

エリブリンは、欧州において2011年3月に「アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2種のがん化学療法による前治療歴のある局所進行性・転移性乳がん」の適応で承認を取得し、2011年4月に英国で新発売されました。さらに、本剤は、欧州において2014年6月に「1レジメン以上の前治療歴のある局所進行性・転移性乳がん(術後または再発後にアントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤による治療歴を有すること)」での適応拡大の承認を取得しています。

当社は、がん領域を重点領域の一つと位置づけており、がんの「治癒」に向けた革新的な新薬創出をめざしています。当社はエリブリンのさらなるエビデンスの創出およびアクセスの拡大に注力し、本剤の製品価値最大化を通じて、がん患者様とそのご家族、さらには医療従事者の多様なニーズの充足とベネフィット向上に、より一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. 「ハラヴェン」(一般名:エリブリンメシル酸塩、以下 エリブリン)について

エリブリンは、新規の作用機序を有するハリコンドリン系の微小管ダイナミクス阻害剤です。海洋生物クロイソカイメン(Halichondria okadai)から抽出された天然物ハリコンドリンBの全合成類縁化合物であり、微小管の伸長(重合)を阻害・抑制することで、細胞分裂の停止作用を有しています。加えて、最近の非臨床研究において、腫瘍の血流循環を改善すること3、乳がん細胞の上皮細胞化を誘導すること、乳がん細胞の転移能を減少させる4など、ユニークな作用を有することが報告されています。

本剤は、2010年11月に米国で「アントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2レジメンのがん化学療法による前治療歴のある転移性乳がん」の適応で最初の承認を取得し、これまでに日本、欧州、米州、アジアなど約60カ国で乳がんに係る適応で承認を取得しています。日本では、「手術不能又は再発乳癌」を効能・効果として承認され、2011年7月に発売しました。また、欧州やアジアなどでは「1レジメン以上の前治療歴のある局所進行性・転移性乳がん(術後または再発後にアントラサイクリン系及びタキサン系抗がん剤による治療歴を有すること)」での適応拡大の承認を取得しています。

悪性軟部腫瘍に係る適応については、2016年1月に、米国で「アントラサイクリン系抗がん剤治療を含む化学療法の前治療歴のある手術不能または転移性の脂肪肉腫」の適応で、2016年2月に日本で「悪性軟部腫瘍」の適応で、2016年5月に欧州で「進行または転移性で、アントラサイクリン系抗がん剤治療(不適な場合を除く)を含む化学療法の前治療歴のある手術不能な成人の脂肪肉腫」の適応で、それぞれ承認を取得しています。また、スイス、オーストラリア、ブラジル、マレーシアなどで承認申請中です。

2. 新しいNICEの抗がん剤評価スキームについて

2009年に設立された旧Cancer Drugs Fund(CDF)は、新規抗がん剤への患者様アクセスを改善することを目的として、NICEにより「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用を拠出してきました。しかしながら、財政負担の著しい増加に伴い、2016年7月29日より、新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始されました。新たに承認を取得する全ての新規抗がん剤は、NICEにより評価されることとなり、旧CDFにリストされていた抗がん剤については、各社の判断で新スキームのもとでNICEの再評価を受けることができます。NICEによる評価は、最初に暫定的な評価案(Appraisal Consultation Document)として公表され、FADの公表を経て、最終ガイダンス(Final Guidance)として確定されます。「推奨」の場合には、NHS Englandから償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による一件審議となり、使用は大きく制限されます。推奨の可能性はあるもののエビデンスが不足していると判断された場合には「CDF下での限定的推奨」となり、最大2年間にわたりCDF下での暫定的なアクセスが確保されます。その後、新たに取得したエビデンスをもとにNICEによる再評価が実施され、最終的な「推奨」、「非推奨」の判断がなされます。

  • 1

    “Life-extending breast cancer drug approved by NICE in draft guidance”, NICE, accessed: November 3, 2016
    https://www.nice.org.uk/news

  • 2

    “Cancer patients ‘denied access’ to latest drugs”; The Times, accessed 31 October, 2016
    http://www.thetimes.co.uk/article/cancer-patients-denied-access-to-latest-drugs-b2l9xxg6n

  • 3

    Funahashi Y et al. Eribulin mesylate reduces tumor microenvironment abnormality by vascular remodeling in preclinical human breast cancer models. Cancer Sci., 2014; 105, 1334-1342

  • 4

    Yoshida T et al. Eribulin mesilate suppresses experimental metastasis of breast cancer cells by reversing phenotype from epithelial-mesenchymal transition (EMT) to mesenchymal-epithelial transition (MET) states. Br J Cancer, 2014; 110, 1497-1505