自社創製の新規抗がん剤「レンビマ®」腎細胞がんの適応で米国FDAよりブレイクスルーセラピーの指定を受領

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、米国子会社であるエーザイ・インクが、自社創製の新規抗がん剤「レンビマ®」(一般名:レンバチニブメシル酸塩、以下 レンバチニブ)の進行または転移性腎細胞がんの適応に対して、米国FDAよりブレイクスルーセラピーの指定を受けましたのでお知らせします。

ブレイクスルーセラピーとは、重篤あるいは生命にかかわる疾患に関する薬剤の開発および審査の促進を目的とした米国FDAの制度です。この指定により、承認までの期間短縮のための開発・申請計画の相談や審査資料の段階的提出・審査などの制度が利用可能になります。ブレイクスルーセラピーの指定には、臨床的に重要な評価項目において、既存の治療法と比較して、当該薬剤の顕著な改善を示す予備的臨床エビデンスが必要です。

今回のブレイクスルーセラピーの指定は、レンバチニブにおける、血管内皮細胞増殖因子を標的とする治療後の、進行または転移性腎細胞がんを対象とした臨床第Ⅱ相試験(205試験)1に基づくものです。本試験において、レンバチニブ/エベロリムス併用投与群(以下、併用投与群)は、エベロリムス単剤投与群と比較して、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に延長しました。また、レンバチニブ単剤投与群は、エベロリムス単剤投与群と比較して、PFSを延長しました。さらに、併用投与群およびレンバチニブ単剤投与群は、エベロリムス単剤投与群と比較して、より高い奏効率を示しました。全生存期間に関しては、2014年12月時点におけるアップデート解析で、併用投与群におけるエベロリムス単剤投与群に対する延長が示唆されました。本試験における主な有害事象は、併用投与群では下痢、食欲減退、疲労であり、グレード3以上の主な有害事象は、下痢、高血圧、疲労でした。

腎がんの罹患者数は、2012年において世界で約33万8千人、米国では約5万8千人と推定されています2。腎細胞がんは、腎臓におけるがんの90%以上を占めています3。手術が難しい進行または転移性の腎細胞がんでは、分子標的薬による治療が標準ですが、5年生存率が低く、依然としてアンメット・メディカル・ニーズの高い疾病です。205試験の結果は、進行または転移性腎細胞がんの二次療法として、全米総合がん情報ネットワーク(The National Comprehensive Cancer Network:NCCN)の診療ガイドラインで推奨されている薬剤のひとつであるエベロリムス単剤に対して、レンバチニブ/エベロリムス併用の優位性を示唆するものです。なお、現在、主要国で、進行または転移性腎細胞がんの二次治療の適応で承認されている併用療法はありません。

当社は、205試験の結果を審査当局と共有しており、腎細胞がんに係る適応での申請可能性について、当局と協議を行っています。レンバチニブは、米国、日本、欧州において、甲状腺がんに係る適応で販売されており、加えて、肝細胞がんなどを対象にした臨床試験が進行中です。当社は、レンバチニブによるがん治療の可能性を引き続き追求し、がん患者様とそのご家族の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. レンバチニブメシル酸塩(商品名:レンビマ)について

レンバチニブは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であるVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な、自社創出の新規結合型チロシンキナーゼ阻害剤です。本剤は、VEGFR2とのX線共結晶構造解析から、新たな結合様式(タイプV)を有することが確認された薬剤であり、速度論的解析からは、標的分子に素早く結合し強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されています4

現在、レンバチニブは、甲状腺がんに係る適応で、米国、日本、欧州で承認を取得し、その他、世界9カ国で申請中です。また、肝細胞がん(フェーズⅢ)や子宮内膜がん(フェーズⅡ)、非小細胞肺がん(フェーズⅡ)など複数のがんを対象にした臨床試験が進行中です。なお、レンバチニブは、米国、日本、欧州の各当局より、甲状腺がんの治療に係る希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けています。

2. 205試験について1

205試験は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)およびその受容体を標的とする薬物による治療歴を有する進行または転移性腎細胞がんの患者様を対象とした、レンバチニブ(18mg)/エベロリムス(5mg)併用投与、レンバチニブ単剤(24mg)投与、エベロリムス単剤(10mg)投与の3群の有効性と安全性を比較する、多施設共同、無作為化、非盲検の臨床第Ⅱ相試験として欧米で実施され、153人の患者様が各群に1:1:1の割合で無作為に割り付けられました。

レンバチニブ/エベロリムス併用投与群は、エベロリムス単剤投与群に比較して、主要評価項目である無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)を有意に延長しました(併用投与群14.6カ月 vs エベロリムス単剤群5.5カ月(中央値)、ハザード比0.40(95%信頼区間 = 0.24-0.68)、p<0.001)。また、レンバチニブ単剤投与群のPFS中央値は7.4カ月であり、エベロリムス単剤投与群に対する延長を示しました(ハザード比0.61(95%信頼区間 = 0.38-0.98)。

副次評価項目として奏効率(objective response rate: ORR)、全生存期間(overall survival: OS)などが評価されました。併用投与群およびレンバチニブ単剤投与群は、エベロリムス単剤投与群と比較して、より高いORRを示しました(併用投与群(43%)、レンバチニブ単剤投与群(27%)、エベロリムス単剤投与群(6%))。また、OSに関しては、2014年12月時点におけるアップデート解析で、併用投与群におけるエベロリムス単剤投与群に対する延長が示唆されました(ハザード比0.51(95%信頼区間 = 0.30-0.88))。

本試験において確認された主な有害事象は、併用投与群では、下痢、食欲減退、疲労であり、グレード3以上(有害事象共通用語規準)の主な有害事象は、下痢、高血圧、疲労でした。

3. 腎細胞がんについて

腎がんの罹患者数は、2012年において世界で約33万8千人、米国では約5万8千人、日本では約1万7千人、欧州では約11万5千人と推定されています2。腎細胞がんは、腎臓におけるがんの90%以上を占めており3、尿細管の細胞ががん化したものです。罹患率は50歳代後半以降に増加し、また女性より男性に多く発症するとされています。標準療法は外科的治療が中心ですが、進行性や転移性の場合は、分子標的薬を中心とする治療が主体となります。

4. ブレイクスルーセラピーについて

ブレイクスルーセラピーとは、重篤なあるいは命にかかわる疾患に関する薬剤の開発および審査の促進を目的とした米国FDAの制度です。この指定を受けるためには、1つ以上の臨床的に重要な評価項目において、既存の治療法と比較し、当該薬剤の顕著な改善を示す予備的臨床エビデンスが必要です。ブレイクスルーセラピーの指定を受けることにより、承認までの時間短縮のための開発・申請計画の相談、審査迅速化のための当局内リエゾンや審査資料の段階的提出・審査(ローリングレビュー)などの制度が利用可能になります。

  • 1

    Robert Motzer, et al, “Randomized phase Ⅱ, three-arm trial of lenvatinib (LEN), everolimus (EVE), and LEN+EVE in patients (pts) with metastatic renal cell carcinoma (mRCC).” Journal of Clinical Oncology 33(15), 2015 (suppl; abstruct 4506)

  • 2

    GLOBOCAN2012: Estimated Cancer Incidence, Mortality and Prevalence Worldwide in 2012. http://globocan.iarc.fr/

  • 3

    Eble J.N, et al. Pathology and Genetics of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs, World Health Organisation classification of tumours. (International Agency for Research on Cancer, Lyon, France in 2004)

  • 4

    Okamoto K, et al. Distinct Binding Mode of Multikinase Inhibitor Lenvatinib Revealed by Biochemical Characterization. ACS Med. Chem. Lett. 2015; 6, 89–94