抗がん剤「レンビマ®」が放射性ヨウ素治療抵抗性の進行性甲状腺がん治療薬として欧州で承認取得

エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫)は、このたび、抗がん剤「レンビマ®」(一般名:レンバチニブメシル酸塩)について、欧州委員会(European Commission)より、「成人での放射性ヨウ素治療抵抗性の進行性又は再発の分化型甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、ヒュルトレ細胞がん)」の適応で、承認を取得いたしましたのでお知らせします。本剤は、欧州医薬品庁(European Medicines Agency)より、迅速審査の指定を受けており、2014年8月14日の申請から約9カ月で承認を取得いたしました。

本承認は、グローバルで実施した分化型甲状腺がんを対象とした臨床第Ⅲ相試験(SELECT試験)の結果に基づくものです1。本試験において、「レンビマ」投与群はプラセボ投与群に比べ、主要評価項目である無増悪生存期間 (progression free survival: PFS)を統計学的に有意に延長しました(p<0.001、「レンビマ」18.3カ月vsプラセボ3.6カ月(中央値)、ハザード比0.21(99%信頼区間 = 0.14-0.31))。また、「レンビマ」投与群の奏効までの期間の中央値は2.0カ月と投与開始から早期での効果を示しました。さらに「レンビマ」は、プラセボに対して統計学的に有意に高い奏効率(完全奏効および部分奏効の割合)を示しました(p<0.001、「レンビマ」64.8%vsプラセボ1.5%)。特に「レンビマ」投与群では、完全奏効が1.5%(4例)確認されました(プラセボ投与群では0例)。「レンビマ」投与群における主な副作用は、高血圧、下痢、疲労・無力症、食欲減退、体重減少、悪心でした。

「レンビマ」は、当社の筑波研究所で創製され、自社開発した新規抗がん剤です。腫瘍血管新生や腫瘍増殖に関わるVEGFR、FGFR、RET、KIT、PDGFRなどに対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な分子標的治療薬であり、特に甲状腺がんの腫瘍血管新生と腫瘍増殖に関与するVEGFR、FGFRおよびRETを同時に阻害します。また、本剤は、VEGFR2とのX線共結晶構造解析から、新たな結合様式(タイプV)を有することが確認された薬剤であり、速度論的解析からは、標的分子に素早く結合し強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されています2

「レンビマ」は、2015年2月、米国において、「局所再発又は転移性、進行性、放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺がん」の適応で発売されました。また、2015年3月、日本において、「根治切除不能な甲状腺癌」の適応で承認を取得しました。

欧州での甲状腺がんの罹患者数は毎年52,000人以上と推定されています。甲状腺がんの多くは治療可能ですが、進行した甲状腺がんの治療選択肢は限られているため、未だアンメット・メディカル・ニーズが高い疾病の一つです。当社は、「レンビマ」によるがん治療の可能性を引き続き追求し、がん患者様とそのご家族の多様なニーズの充足とベネフィット向上により一層貢献してまいります。

以上

<参考資料>

1. 「レンビマ」(一般名:レンバチニブメシル酸塩)について

「レンビマ」は、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)であるVEGFR1、VEGFR2、VEGFR3や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)のFGFR1、FGFR2、FGFR3、FGFR4に加え、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)のPDGFRα、KIT、RETなどの腫瘍血管新生あるいは腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に対する選択的阻害活性を有する経口投与可能な、自社創出の新規結合型チロシンキナーゼ阻害剤です。特に甲状腺がんの増殖、腫瘍血管新生に関与するVEGFR、FGFRおよびRETを同時に阻害します。また、本剤は、VEGFR2とのX線共結晶構造解析から、新たな結合様式(タイプV)を有することが確認された薬剤であり、速度論的解析からは、標的分子に素早く結合し強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されています2。現在、「レンビマ」は、甲状腺がんに係る適応で日欧米において承認を取得し、その他7カ国で申請中です。また、肝細胞がん(フェーズⅢ)や腎細胞がん(フェーズⅡ)、非小細胞肺がん(フェーズⅡ)、子宮内膜がん(フェーズⅡ)など複数のがん腫を対象にした臨床試験が進行中です。なお、「レンビマ」は、日本(甲状腺がん)、米国(局所進行性または転移性甲状腺乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん)、欧州(甲状腺乳頭がんおよび濾胞がん)の各当局より甲状腺がんの治療に関わる希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)の指定を受けています。

2. 新規結合様式(タイプV)について2

キナーゼ阻害剤は、標的キナーゼへの結合部位と阻害剤が結合した際にキナーゼがとるコンフォーメーションの違いにより、タイプI∼Vに分類されます。これまでに承認されているチロシンキナーゼ阻害剤の多くはタイプIあるいはタイプⅡに属しますが、「レンビマ」は、X線結晶構造解析により、既存薬とは異なるタイプVの結合様式を有する阻害剤であることが明らかになりました。また、「レンビマ」は速度論的解析実験から、標的分子に素早く結合し強力なキナーゼ阻害作用を示すことが確認されており、これには新規結合様式が寄与していると推察されています。

3. SELECT試験について

SELECT(Study of E7080 “LEnvatinib” in Differentiated Cancer of the Thyroid)試験は、過去13カ月以内に画像診断により病勢進行が確認され、VEGF受容体を標的とする治療歴が1レジメン以内である放射性ヨウ素治療抵抗性の分化型甲状腺がんの患者様を対象に、「レンビマ」(24mg)またはプラセボを1日1回経口投与する(「レンビマ」投与:プラセボ投与 = 2:1)、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照臨床第Ⅲ相試験として実施されました。本試験では、主要評価項目として両群の無増悪生存期間について比較が行われ、また、副次評価項目として、奏効率(完全奏効率および部分奏効率の割合)、全生存期間および安全性が評価されました。本試験は、SFJ Pharma Ltd.との提携のもと当社が実施し、本試験には欧州、米州および日本を含むアジア地域の100以上の施設が参加し、392人の患者様が登録されました。

4. 甲状腺がんについて

甲状腺がんは、気管の付近、頸部の前面に位置する甲状腺の組織に生じるがんの一種です。男性より女性に多く発症します。最も多く見られる甲状腺がんの種類である乳頭がんと濾胞がん(ヒュルトレ細胞がんを含む)は、分化型甲状腺がん(Differentiated Thyroid Cancer: DTC)として分類され、甲状腺がんのおよそ95%を占めます。その他、未分化がん(頻度:3∼5%)、髄様がん(頻度:1∼2%)があります。分化型甲状腺がん患者様の多くは、手術および放射性ヨウ素療法で治療できる一方、これらの治療に適さない少数の患者様もいます。

  • 1
    Schlumberger M, et al. Lenvatinib versus Placebo in Radioiodine-Refractory Thyroid Cancer. N. Engl. J. Med. 2015; 372, 621–630
  • 2
    Okamoto K, et al. Distinct Binding Mode of Multikinase Inhibitor Lenvatinib Revealed by Biochemical Characterization. ACS Med. Chem. Lett. 2015; 6, 89–94