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身近な生活にある薬用植物 ザクロ〜紅色の宝石〜
 美しい紅色のザクロの実を割ると、中から透明の宝石のような粒が現れます。植物学的に言えばこの粒は種子とその外側についた外種皮で、外種皮の部分のみ食べます。実の中にぎっしりと詰まった粒を食べると甘酸っぱい果汁があふれてきますね。私の大好きな果物のひとつです。最近ではザクロジュース、果汁を用いたグレナディン・シロップなど加工されたものも見かけます。

 原産地はペルシャ地方(現在のイラン付近)から北インドとされ、イエメンのソコトラ島には今もザクロの原種の木が残るといわれています。学名Punica granatumは、古代地中海の大国・カルタゴ(現在のチュニジア付近)に由来するもので、別名を“カルタゴのリンゴ”と呼ばれたようです。モロッコでは皮革をなめして赤く染めるのに果実の皮を用います。
 ギリシア神話では、大地の女神・デメテルの娘であるペルセポネが冥府の王・ハディスにさらわれてしまった伝説に登場します。ペルセポネは冥府でザクロの実を6粒食べてしまったため、一年のうち、6ヶ月を冥府、残り6ヶ月を地上で暮らすことになりました。娘がいない6ヶ月の間はデメテルが悲しむため、世界は秋と冬になってしまうと考えられたのです。初期のキリスト教でも“生命の木”と考えられ、紋章や衣服、建築物の意匠に用いられてきました。
 日本には西域、中国を経て伝わったといわれています。漢名は「安石榴」と書き、「安石」は「安息」と同じくパルティアのアルサケス王朝を音訳したもので、ペルシャ地方を指します。紀元前2世紀に西域を探検した張騫(ちょうけん)がもたらしたといわれています。

 仏教では鬼子母神の説話が有名です。鬼子母神は訶梨帝母(カリーティ)とも呼ばれて、1000人のこどもを産んでかわいがっていました。しかし彼女は人間のこどもを食べるため、こどもを奪われた大勢の母親が嘆き悲しみました。そこでお釈迦様が1000人いるうちの末の子を隠してしまわれたところ、鬼子母神は必死になってこどもを探し回りました。お釈迦様は、1000人のうちの1人を失ってもそれほど悲しく思うのに、1人、2人しかいない大切なこどもを失った母親たちの嘆きを何とも思わないのか、と鬼子母神を諭されました。彼女が悔い改めたのでお釈迦様はこどもを返してやり、これからはこどもの代わりにこれを食べるように、とザクロをお与えになりました。それ以降、鬼子母神は安産とこどもの守り神となったといわれます。東京の鬼子母神の絵馬にもザクロが描かれています。
 このような伝説からも、実の中に粒がたくさん入っているザクロが多産の象徴とされてきたことがうかがわれます。

 日本では、平安時代の深根輔仁による『本草和名』に「安石榴」とあり、現在では漢字では「石榴」「柘榴」と表記します。生薬としては果実の皮を石榴皮(せきりゅうひ)、根の皮を石榴根皮(せきりゅうこんぴ)と呼び、かつては条虫(じょうちゅう)という寄生虫駆除に用いました。副作用が強いため、現在では使われなくなりました。民間薬としては、果実の皮をうがいに用いたこともあるそうです。
 日本ではかつて銅製の鏡は、錫(すず)に水銀を加えて作った合金に砥の粉を混ぜ、少量の酸を加えたもので研ぎました。この時に酸として、ザクロや梅の酢、酢漿草(カタバミ)が用いられました。ザクロの外種皮にはクエン酸やリンゴ酸が含まれており、それを布に包んで利用したようです。
 『七十一番職人歌合』には中世のさまざまな職人が描かれていますが、鏡磨(かがみとぎ)の職人の脇にザクロの実が描かれているものがあります。添えられた和歌にも「水かね(=水銀)やざくろのすます影なれや 鏡と見ゆる月のおもては」とザクロが詠まれています。
 ガマの葉で作った磨き袋やホオの葉を仕上げに使う職人もいたようです。都市部へは加賀や越中・氷見地方から旅職人がやってきて家々をまわり、鏡を研ぎました。

 ちなみに、江戸時代の銭湯で湯船の入口を「柘榴口(ざくろぐち)」と呼びますが、ここから中に入るのには体をかがませる必要がありました。したがって「かがみ入る」入口、「鏡要る」入口、つまり鏡を研ぐのにはザクロが必要なので「柘榴口」という名前になった…といわれています。ザクロは今よりもずっと身近な植物だったんですね。

記事:内藤記念くすり博物館
         稲垣 裕美 (2011年4月)

ザクロの実

絵には鏡磨(と)ぎに用いるザクロの絵が描かれている。
添えられた文章は「しろみの御かゞみは とぎにくく侍(はべり)」と書かれている。
「しろみ(白鑞=銅とニッケルの合金)」で作った鏡は上質のものである。
この材質の鏡は通常用いる水銀では磨ぎにくいため、鏡磨ぎが困っているのである。
ザクロ
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