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身近な生活にある薬用植物 柿
 晩秋の味覚といえば柿、実ったばかりでサクサクと歯ごたえがある果実も、柔らかく完熟した甘い果実も、それぞれの美味しさがあります。
 賞味する方法も、乾燥させて羊羹のような甘い干柿にしたものも、刻んで酢の物にあえた小鉢の一品も味わい深く楽しめます。
 もともとは中国原産の樹木ですが、日本で食用果樹として改良されたようで、現在は和歌山、奈良、福岡などで多く生産されています。カキノキ科の落葉高木、雄雌同株で6月頃に黄緑色の花を咲かせます。

 実に含まれる成分は、ブドウ糖、果糖、蔗糖(しょとう)などの甘み成分以外に、ビタミンやミネラルも豊富です。ビタミンCはミカンの約2倍ですし、B1やB2、βカロテン、カリウムも豊富に含まれています。特有の成分では、血圧を安定させるシブオールとアルコール分解を促すアルコールデヒドロゲナーゼが含まれています。お酒に酔ったときに食べると、二日酔いになりにくいと言われているのは、そうした効果によるものだそうです。

 美味しい果実というだけでなく、葉(柿葉)やへた(柿蔕)、渋(柿渋)、干柿の表面に付着している白い粉(柿霜)にも役立つ成分が含まれています。葉は実以上に、ビタミンCの含有量が多く、ルチン、ケルセチン、タンニンなども含んでいるため、血圧を下げたり、利尿や止血効果があり、柿葉茶は高血圧によいとされています。へたは、昔からの言い伝えで、煎じて飲むとしゃっくりが止まる妙薬になると言われて家庭での民間療法として用いられることがありました。それは、ウルソール酸などの働きで横隔膜の痙攣が鎮静されるためで理にかなっています。

 カキには、甘柿と渋柿があることはよく知られていますが、渋み成分「タンニン」が口の中で溶けるかどうかによって異なります。渋みが溶けると口の中で広がるため渋くなり、溶けなければ甘く感じます。幼果期はどちらも渋みが溶ける「水溶性」タンニンを含んでいますが、甘柿は成熟過程でタンニンが「不溶性」に変化して口の中で溶けなくなるので、渋みを感じなくなるというわけだそうです。柿渋は中風の妙薬にも用いられることがありました。ビタミンPと似た化学構造式で、血管の透過性を高める効果があるそうです。

 柿渋には防水や防腐効果があるため、日常生活品にも使われました。木、紙、布などの表面に柿渋を塗ると耐水性と耐腐食性が高まります。戦後、合成樹脂塗料などの化学製品が登場すると柿渋の需要は減りましたが、以前は渋紙、紙衣、和傘、うちわ、絞り袋、漁網、建材などの天然塗料として広く用いられていました。
 くすり博物館で所蔵している江戸時代の和装本の表紙や古文書の外袋など、柿渋で染められた和紙が使われているものがあります。耐久力が増した上に、柿渋の防虫効果も加わり良質な状態で残っているのは、ありがたいことです。

記事:内藤記念くすり博物館
         野尻 佳与子 (2012年11月)
カキ
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