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身近な生活にある薬用植物
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身近な生活にある薬用植物 医薬品の原料となった植物
 東洋においても西洋においても、昔から人々は植物を薬として用いてきた。ただ、天然の植物は、産地の違いやその年の気候などによって、その中に含まれる有効成分の含有量が一定しておらず、薬効が不安定なものだった。もし、有効成分を取り出して必要量を投与できれば、確実な薬効が期待できる。そのため、研究者たちは何とかして有効成分だけを取り出そうと研究を進めてきた。

 この試みが成功したのは、1770年代以降のことだった。スウェーデンのシェーレが、尿から尿酸、牛乳から乳酸などを抽出することに成功した。1805年には、ドイツのゼルチュルナーによってケシの実から有効成分・モルヒネが抽出された。ゼルチュルナー以降、1835年までに約30種類の有効成分が抽出・単離された。これらの有効成分の多くはアルカリに似ていることから、1818年ドイツの薬剤師・マイスナーにより“アルカロイド(日本語では「植物塩基」)”と命名された。

 フランスのマジャンディは吐根からエメチンを抽出した医師だったが、当時発見された多数の有効成分を治療薬として調製する処方書も著した。19世紀は、体の正常な機能と病的な機能を対比して生体の機能を究明する実験生理学も盛んとなった時代であった。そしてこの時代には、実際の医療の現場で、薬草の有効成分を薬品として用いるようになっていった。


記事:内藤記念くすり博物館
         稲垣  裕美 (2009年9月)
<植物と、その植物から抽出・分離された成分>
アンソクコウノキ →安息香酸
 1775年 スウェーデンのシェーレにより発見された。それ以前は安息香チンキを主成分とした薬“修道士のバルサム”を去痰・鎮咳に用いていた。
インドジャボク →レセルピン
 1952年スイスのシュリットラーらにより発見された。インドジャボクはインドの伝統医学・アユールヴェーダでも精神疾患に用いられていた。
キナ →キニーネ
 1820年にフランスのペルティエとキャベントゥが成分を分離した。キナは1630年ペルーのアンデス山脈で用いられていたものがヨーロッパに紹介され、解熱剤として用いられていた。
ケシ →モルヒネ
 1806年ドイツのゼルチュルナーがモルヒネを単離した。ケシは古代から鎮痛薬に用いられてきた。
コカノキ →コカイン
 1860年ニーマンらが分離し、その後鎮静・催眠・麻酔作用が判明した。オーストリアのコラーが局所麻酔剤として用いた。
コーヒーノキ →カフェイン
 カフェインは、ルンゲ(1820年)、ロビック(1821年)、ペルティエとキャベントゥ(1821年)らがほぼ同時期に発見した。後にチャから発見されたテインもカフェインと同一の成分と判明した。
ジギタリス →ジギトキシン
 古くから毒草として知られていたが1775年イギリスのウィザリングが民間薬の処方から、ジギタリスに利尿作用があることを発見した。1869年にフランスのナティペユがジギトキシンを抽出した。心不全の特効薬として用いられた。
セイヨウシロヤナギ、セイヨウナツユキソウ →サリチル酸
 古代ギリシャ時代からセイヨウシロヤナギは痛み止めに用いられてきた。1763年にこのヤナギの抽出物に解熱作用があることが判明し、サリシンが抽出され、さらにそれを分解してサリチル酸が得られた。1838年にはセイヨウナツユキソウからも同じ物質が発見された。1899年にはアセチルサリチル酸を用いたアスピリンが発売された。
ダイフウシノキ属 →大風子油
 1873年にノルウェーのハンセンがハンセン病の菌を発見した。アジアではこの病気にダイフウシノキ属の種子の油を大風子油と呼んで治療に用いてきた。1943年にはサルファ剤・プロミンに取って代わられた。
トコン →エメチン
 ブラジルでは、アメーバ赤痢の治療薬としてトコンの根が用いられてきた。17世紀にはヨーロッパに赤痢・下痢の薬として伝わり、1817年にフランスのペルティエとマジャンディがエメチンを抽出した。催吐・去痰剤に用いた。
ハシリドコロヒヨスベラドンナ →アトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミン
 3種類の成分ともアルカロイドである。1833年にガイガーとヘッセによりベラドンナからアトロピンが分離された。ヒヨスはスコポラミンとヒヨスチアミンを含んでおり、ヒヨスチアミンはアトロピン製造の原料となった。
マオウ →エフェドリン
 マオウ(麻黄)は漢方で血行や発汗促進、解熱、鎮咳に用いられてきた。長井長義が命じて研究が行われ、1887年にマオウからエフェドリンが分離された。
マチン →ホミカ
 マチンの種子は狩猟の矢毒に用いられてきた。漢方の生薬としては馬銭子(ませんし)・蕃木鼈(ばんぼくべつ)、西洋ではホミカと呼ばれ、苦味健胃薬とされた。1818年にペルティエとキャベントゥがマチン属の種子からストリキニーネを分離した。
<生薬と医薬品>

生薬「安息香樹脂」
Y.Nakagawa
瓶入り
昭和20年以前

ボリビアキナノキ

ポスター「皇国葡萄酒株式会社」
紙製

ヂギタリス葉末 500g
トンボ商会
大阪
瓶-有-元封
昭和20年以前

サリチール酸汞丸 0.003g 1000p
小谷製薬所
大阪
瓶-有-元封
昭和20年以前

アスピリン 450g
Bayer
ドイツ
箱-有-元封
昭和20年以前

大風子油丸 1000p
東京製剤
東京
瓶-有-開封

生薬「吐根」
木村雄四郎コレクション
瓶入り


エフェドリン「ナガイ」注射液 1ccx10
大日本製薬
大阪
箱-有-元封
昭和20年以前

生薬「ホミカ」
Y.Nakagawa
瓶入り
昭和20年以前

<参考文献>
医学の歴史 1古代から産業革命まで C.Singer, E.A.Underwood著 酒井シヅ 深瀬泰旦訳 朝倉書店 1985
医学の歴史 2メディカルサイエンスの時代
1−形態学・予防医学など−
C.Singer, E.A.Underwood著 酒井シズ 深瀬泰旦訳 朝倉書店 1990
医学の歴史 3メディカルサイエンスの時代
2−細菌学・生理学など−
C.Singer, E.A.Underwood著 酒井シヅ 深瀬泰旦訳 朝倉書店 1986
医学の歴史 4メディカルサイエンスの時代
3−病理学・治療など−
C.Singer, E.A.Underwood著 酒井シヅ 深瀬泰旦訳 朝倉書店 1986
近代薬物発達史 宗田一著 薬事新報社 1974
世界薬学史 C.H.Lawall著 日野巌 久保寺十四夫訳 厚生閣 1932
世界薬学史 索引 C.H.Lawall著 日野巌 久保寺十四夫訳 厚生閣 1932
薬化学小史 5版 村山義温著 広川書店 1962
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